研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109009
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
池田 浩 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30211717)
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研究分担者 |
松井 康哲 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90709586)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 有機化学 / 有機EL / 低炭素 / 熱ルミネッセンス / DFT計算 / 電子移動反応 / 光化学反応 / レーザーフラッシュフォトリシス |
研究実績の概要 |
本研究では,正・逆電子移動反応に感応して生ずる励起ビラジカルの発光特性を明らかにし,前例のない高機能発光素子「有機ラジカルEL」を創製する.具体的には次の三つの課題を扱う. 課題1:(系I)励起三重項トリメチレンメタン型ビラジカルT-2・・*および(系II)励起一重項シクロヘキサ-1,4-ジイルS-4・・*の熱ルミネッセンスの観測と機構解明 課題2:T-2・・*を用いた「有機ラジカルEL」の創製 課題3:S-4・・*を用いた「励起有機πラジカル系の軌道相互作用」の解明 平成27年度は,以下の項目1~9のうち,1~7,特に3,4を中心に行った. ①合成(基質メチレンシクロプロパン1,シクロヘキサジエン3の合成),②γ線およびX線誘起熱ルミネッセンス (基質の低温マトリクスのγ線照射,吸収スペクトル測定,さらに昇温後,発光スペクトル測定),③ダブルレーザーフラッシュフォトリシス(基質1,3の光電子移動反応で生ずるラジカルカチオンや基底ビラジカルの過渡吸収測定,励起ビラジカルの過渡発光測定),④量子化学計算(密度汎関数理論計算等による分子構造,電子構造,電子遷移の評価),⑤置換基効果(発光波長(実験値)および電子遷移波長(計算値)に対してHammett則を適用し,分子構造と電子構造を評価),⑥「有機ラジカルEL」のメリットの考察(長波長発光の簡易実現,内部量子収量の飛躍的増大,耐久性向上のための新機構,の定量化),⑦「有機ラジカルEL」の試作・開発,⑧「励起有機πラジカル系の軌道相互作用」の解明(S-4・・*の軌道相互作用の発現による新電子状態の確認,新有機発光材料の設計指針),⑨総括(新分野「有機ラジカルEL」の創製,「励起有機πラジカル系の軌道相互作用」の解明,それを利用した新しい有機発光材料開発)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)平成27年度は,分子間光誘起エネルギー移動反応と光照射で,励起TMMビラジカルT-2・・*に関連させて,励起1,3-ビラジカルを発生させる研究を行った.具体的には,三重項増感剤としてベンゾフェノン(BP)を用い,新規シクロプロパン誘導体とのエネルギー移動反応により1,3-ビラジカルを発生させ,さらにその光励起を行い,励起1,3-ビラジカルの光化学および光物理特性を,シングルおよびダブルレーザーフラッシュフォトリシスを用いて解析した.その結果,蛍光量子収率や蛍光寿命を計画通りに決定できた. (2)二つのジフェニルアントラセンをアダマンタンにより連結したダイアドが,母体より高効率な三重項―三重項消滅アップコンバージョン発光を示すことを見出した. (3)ジアロイルメタナートボロンジフロリドの結晶は,置換基の嵩高さによって蛍光特性が変化し,多分子間での軌道相互作用による“励起マルチマー”由来の発光を示すことを明らかにした. (4)以上に加え,A01班では3名,A02班では5名, A04班では1名の各研究者と,ビラジカル発光の理論的評価,光反応機構解析,カルベン寿命評価,発光寿命解析などの共同研究を進めた. このような状況から,上記の達成度と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で見出された「励起状態C-C結合開裂―発光」系は,断熱的化学反応のひとつとして学術的な価値が高いので,平成28年度もさらに詳細な検討を加える.最終的には,学術的な知見と実用試験の結果をもとに,あらたな「有機ラジカルEL」の開発提案を行う.また,本研究趣旨に沿った新たな反応系(ダイアドによる三重項―三重項消滅アップコンバージョンなど)がいくつか開拓できたので,この萌芽的研究を実験および理論の両面からさらに推進する.また,来年度は最終年度になることから,自らの研究の他に,他の班員との共同研究もスピードアップし,最終的には英文学術誌に発表を行う.このために,松井康哲助教が引き続き研究分担者として参画するとともに,さらに太田英輔助教が研究に協力し,本研究課題を効率的に遂行する.
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