研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小澤 文幸 京都大学, 化学研究所, 教授 (40134837)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 低配位リン配位子 / 感応性金属錯体 / N-H結合活性化 / 酸化還元反応 |
研究概要 |
1. 昨年合成した脱芳香族化ピリジン骨格を含む非対称PNPピンサー型ホスファアルケン錯体[K(18-crown-6)][IrCl(PPEP*)](1)が,金属-配位子協同作用によりアンモニアのN-H結合を室温で瞬時に切断し,対応するアミド錯体[Ir(NH2)(PPEP)](2)に変化することを見いだした.錯体(1)は,アニリンおよびヘキシルアミンとも速やかに反応し,対応するアミド錯体[Ir(NHR)(PPEP)](R = Ph(3), C6H13(4))を与えた.錯体(1)はアンモニアの活性化を起こす初めてのPNPピンサー錯体である. 2. 錯体(1)の反応について,反応速度論とDFT計算を用いて検討した.酸性度の低いアンモニア(pKa = 41)の反応では,ホスファアルケンの強いπ受容性によって大幅にLewis酸性が向上したイリジウムへの配位がまず起こり,これによってN-H結合の酸性度が向上し,不均一開裂が起こる.一方,比較的酸性度の高いアニリン(pKa = 30.6)の反応では,N-H結合が塩基性点であるPPEP*配位子に直接水素結合を起こし,脱プロトン化機構により切断されることが分かった. 3. PNPピンサー型ホスファアルケン配位子(BPEP-Ph)を有するFe(I)錯体[Fe(Mes)(BPEP-Ph)]の1電子還元がイソニトリルの配位により誘発されることを見いだした.TEMPOを用いたラジカルトラップ実験とDFT計算により,この反応がBPEP-Ph配位子へのMes配位子の転位とP-C結合の均一開裂を経由して進行することを明らかにした. 4. PNキレート型ホスファアルケン配位子を用いて特異な幾何構造をもつNi(I)錯体やNi(II)錯体を合成できることを見いだした.また,構造の特異性がホスファアルケンの強いπ受容性に起因することをDFT計算により示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要な標的化合物のひとつである,非対称PNPピンサー型ホスファアルケン錯体をBPEP錯体から簡便に合成できることを見いだした.また,合成した錯体が金属-配位子協同作用によるアンモニアのN-H結合活性化に高い反応性を示すことを明らかにした.さらに我々は,非対称PNPピンサー型ホスファアルケン錯体が,アミンとアルコールの脱水・脱水素縮合反応や,常温常圧におけるCO2のヒドロシリル化反応などに高い触媒活性を示すことを見出している(未発表).本研究は,当初の計画に従い順調に発展している.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,新学術領域研究の特徴であるグループ研究の利点を活かし,我々の研究知見に,A01班の松尾グループが開発した立体保護基(Rind)や,A04班の吉澤グループが得意とする理論計算を融合し,研究の更なる展開を図る計画である.本研究は順調に進展しており,研究計画に変更の必要はない.
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