研究実績の概要 |
1. PNPピンサー型ホスファアルケン配位子(BPEP-Ph)を有するCu(I)錯体[CuX(BPEP-Ph)](X = PF6, SbF6)がMe3SiCNの結合活性化に高い反応性を示し,[Cu(CNEF5)(BPEP-Ph)]錯体(E = P, Sb)とMe3SiFを高収率で与えることを見出した.この反応の特徴は,通常は化学的に不活性であるPF6-やSbF6-が活性な求核剤として働き,金属との協同作用により結合活性化を起こす点にある.BPEP-Phの強いπ受容性によって電子密度の低下したCu(I)中心がこの特異な反応性の要因であると推定された.
2. 脱芳香族化ピンサー型ホスファアルケン配位子(PPEP*)を有する[Ir(L)(PPEP*)]を触媒として,アルコールによるアミンの脱水縮合型アルキル化反応が進行することを見出した.反応は中性条件で効率的に進行し,LがCOおよびtBuNCの場合にN-アルキル化アミンが,LがPPh3の場合にその脱水素体であるイミンが優先的に生成することを示した.触媒中間体モデルである[Ir(NHPh)(PPEP)]とLとの反応について検討し,Lによって反応選択性が逆転する理由を明らかにした.
3. 剛直な縮環構造を有するEind2-BPEP配位子を合成した.また,この配位子をもつ一連の10族金属錯体[M(PPh3)(Eind2-BPEP)](M = Ni, Pd, Pt)について検討し,金属の種類によって幾何構造とNMR化学シフトが大きく変化することを見出した.特に白金錯体は,d10錯体としては特異な平面四角形構造を有し,また31P NMRシグナルがホスファアルケン錯体としては極めて高磁場領域(105.6 ppm)に現れた.DFT計算を用いてその理由を精査し,相対論効果に基づいてd軌道レベルの高い白金中心からホスファアルケンに,極めて効果的なπ逆供与が起こっていることが分かった.すなわち,ホスファアルケンが従来の予測を超えて極めて電子的に柔軟な配位子として機能することが明らかとなった.
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