研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109012
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山下 誠 中央大学, 理工学部, 准教授 (10376486)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 触媒・化学プロセス / 有機工業化学 |
研究実績の概要 |
ヒドロボラン前駆体に[Rh(cod)Cl]2を反応させ、[PBP]Rh(H)Cl錯体を合成し、続くAgOTfによる配位子交換反応により[PBP]Rh(H)OTf錯体が得られた。これに対して、1当量のMe3SiCH2Liを室温で加えたところ、[PBP]Rh錯体が生成した。 [PBP]Rh錯体とフェノールを室温で反応させた所、定量的にO-H結合がロジウムに対して酸化的付加した錯体が生成した。このO-H結合切断反応は-80℃でも5分以内に完結する。一方、[PBP]Rh錯体とEtOHを反応させたところ、カルボニル錯体の生成が確認された。[PBP]Rhと1-undecanolを反応させたところ、カルボニル錯体に加えてアルコールから1炭素減炭したデカンの生成が確認された。また、undecanalを反応させた際にも同じ生成物が観測されたこと、[PBP]Rhと水素の反応によりジヒドリド錯体が可逆的に生成すること、ジヒドリド錯体とアルデヒドの反応によりヒドリドアシル錯体が生成したことから、反応機構を推定した。 ヒドロボラン前駆体をPt(cod)Cl2と反応させることで、[PBP]PtCl錯体を合成した。これをNEt3共存下で還元することで、対応するヒドリド錯体へと変換できた。また、[PBP]PtCl錯体に銀塩を作用させることで、対応するOTf錯体およびNTf2錯体を合成した。得られた[PBP]PtCl錯体はアルケンのヒドロシリル化反応において触媒活性を示すことがわかった。1-deceneとHSiEt3の混合物に触媒量の[PBP]PtCl錯体を添加して、トルエン中100℃で21時間加熱すると、ヒドロシリル化生成物が16.8%の収率で得られた。この際、分岐シリル体は観測されなかったが、アルケンの異性化生成物が多く観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに上記実績に示したように、PBP配位子を有するRh錯体およびPt錯体の合成および各種誘導体合成に成功し、前者は低配位型錯体が単離可能であり、これがフェノールや1級アルコールのOH結合を切断する能力を有すること、後者はヒドロシリル化反応の触媒として利用可能なことを示すことに成功している。Rh錯体は現段階までに2級アルコールのOH結合を切断可能であることに加えて、通常は反応させるのに加熱条件が必要なシクロブタノン類のC-C結合も室温で切断可能であるということが予備的に明らかになっており、これの詳細を解明していくことで高反応性錯体のさらなる性質解明が見込める可能性が大きくなってきている。また、Pt錯体はアルケンの末端水和反応への応用を試みたが、錯体の配位子部分が分解することを明らかにしてきており、これを踏まえて配位子の新規骨格の検討のためのデザインにも着手している。一方で、配位子の側鎖を長くした誘導体に関しても合成に成功しており、Ir錯体を合成したことを各種スペクトル等にて予備的に確認できるところまで来た。 このように、24年度当初の研究実施計画にて予定した研究は順調に進んでいるだけでなく、含ホウ素配位子を有する金属錯体が予想以上に高反応性を示すことも明らかになってきている。今後も次に示した方策にてさらなる検討を続ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度中に研究目的のうち(1)-(i)(ii)および(2)-(i)(ii)に着手する。 (1)-(i) (a)ホウ素上にアルキル置換アミノ基を有するPBP配位子、(b)側鎖の長さを伸ばした配位子、の二種を合成する。これらの配位子は(a)窒素とホウ素の共鳴効果の増大、により錯体の反応性に変化をもたらすことが可能であり、(b)では長い側鎖の存在によりホウ素が錯体中心から吸脱着することで新奇な反応性を期待できる。(1)-(ii) PBP配位子前駆体として使用しているヒドロボランに対してヒドリド反応剤を作用させることで、ジヒドロボラート型のPBP配位子前駆体の合成を目指す。この化合物はヒドリドを複数持つため、還元性を有しており、高原子価金属錯体を還元しながら反応させることにより、これまでに導入できなかった金属を利用することができるようになるかもしれない。 (2)-(i) これまでに導入を行えていなかった8族金属のRuを導入したPBP-Ru錯体の合成を目指す。予備的な検討ではあるが、PBP配位子前駆体とRu(H)(OAc)(PPh3)3との反応で、何らかのPBP-Ru錯体が発生しているという知見を得ている。これら新規の感応性錯体群は既に合成した配位子を有するRhおよびIr錯体と比較しながら、水・アルコール・アミンなどのプロトン性官能基・ベンゼンやアルカンなどの炭化水素・アルケンやアルキンなどの不飽和化合物、などとの反応性を比較する。(2)-(ii) 第4周期金属として鉄・コバルト・銅の導入を試みる。特にコバルトや銅の反応においては酸化的付加が起こる可能性があるため、1価の前駆体を用いることでPBP配位子の導入を試みる。
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