研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109012
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山下 誠 中央大学, 理工学部, 准教授 (10376486)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 触媒・化学プロセス / 有機工業化学 / ホウ素 / 均一系触媒 |
研究実績の概要 |
(1) 低配位ホウ素アニオン配位子ライブラリの構築:iPr基が置換したPBP配位子前駆体および側鎖の長いPBP配位子前駆体の合成経路を確立し、これらとIrとの錯形成に成功した。これらのIr錯体をアルカンの脱水素化に適用したところ、低いながらもアルカンの脱水素化活性を確認した。現在は計算化学における反応機構解析を行いながら論文発表へ向けた詰めを行っている。これらの研究成果は研究項目(3)の「感応性金属錯体を用いた触媒反応開発」における成果であるとも言える。 (2) 低配位ホウ素アニオン配位子を有する感応性金属錯体ライブラリの構築:(2-3) Ru錯体の合成と性質の解明:PBP配位子を有するRu錯体を系統的に合成することでライブラリを作製し、そのうち一つの錯体がアルデヒド類に対する高い水素化活性を示すことを明らかにした。これらの結果は1報の論文として発表した。 (4) 非対称diborane(4)化合物の合成と反応性の解明 25年度中に新規な非対称diborane(4)化合物であるpinB-BMes2が一酸化炭素およびイソニトリルと反応することを見いだしていたが、DFT計算によりこの反応は多数の転位反応を経由することを新しく見いだした。通常は遷移金属を用いないと穏和な条件で三重結合を切断できないが、本研究では典型元素化合物のみでそれが達成された点が意義深い。また、非対称diborane(4)が異常に高い電子受容能を持つことを電気化学測定により明らかにすると共に、対応する一電子還元体であるラジカルアニオンの単離にも成功した。この高い電子受容能はBpin基がπアクセプター性の置換基としてMes2B基に作用することでLUMOエネルギーの低下を誘発していることをDFT計算により明らかにした。この結果は論文2報として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目(1)においては当初の計画通り異なる構造の配位子の合成を順調に達成しており、研究項目(2)でそれらを金属と錯形成させることで、多様な金属錯体ライブラリを構築することに成功している。研究項目(3)では得られた金属錯体群のうち、PtおよびRuについては、アルケンのヒドロシリル化、アルデヒドの水素化に対して触媒活性を有することを見いだした。また、研究項目(1)で新しく合成した配位子を有するIr錯体が、アルカンの脱水素化触媒として作用することを明らかにしてきた。これらの触媒反応の開発により、当初の計画通り進展していると言える。研究項目(4)では研究途中に新しくその合成法と珍しい反応を発見した非対称diborane(4)の化学を展開しており、予測していなかったものの重要な研究成果を得たと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
(1) リン原子上にiPr基を持つ側鎖の長いPBP配位子、側鎖の長さが少し長いPBP配位子、ホウ素上にアルキル置換アミノ基を有するPBP配位子を合成、ライブラリへの追加を行う。 (2) 上記で合成した配位子ライブラリを用いて対応するIrおよびRh錯体を合成する。得られるIr錯体を用いたアルカン脱水素化反応の触媒活性を判定し、各種追跡実験およびDFT計算を用いることで、反応機構の解明も目指す。Rh錯体においてはシクロブテノンのC-C結合切断反応を検討すると共に、5員環との反応を検討する。また第4周期金属塩(鉄・コバルト・ニッケル)との錯形成も行う。 (3) 既に予備的に見いだしている側鎖の長いPBPIr錯体によるアルカンの脱水素化反応の条件を精査し、より高活性な触媒系の構築を目指す。反応速度解析や重水素同位体ラベル実験を用いた素反応研究を行い、活性向上へ向けた足がかりとする。この際、側鎖が長いことにより別経路でのアルカン脱水素化が進行している可能性があるのでこれを明らかにする。また、(2)において第4周期金属錯体が合成できれば、これらを用いて同様のアルカン脱水素化反応を検討する。ここではA03班小澤による電子不足銅錯体と、申請者らがすでに合成している電子豊富Rh錯体を用いて二分子協奏型のヘテロ元素-水素の結合活性化を試み、これを触媒反応として応用することを試みる。 (4) この項目では非対称diborane(4)「ホウ素置換ホウ素化合物」として捉えて、ホウ素置換基が別のホウ素原子へ与える影響を探ることで、新しい反応性を開拓する。具体的には、(a)非対称diborane(4)のアルキンとの反応によるホウ素置換アルケン類の無触媒合成法開拓、(b) 非対称diborane(4)およびRh錯体と窒素分子との反応の検討、を行う。
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