(1)28年度は側鎖が長くtBu基が置換したPBP配位子の合成および側鎖が長く脂肪族骨格を持つtBu基が置換したPBP配位子の合成を達成した。 (2)ではこれらのPBP配位子群に対してIrを導入することで5配位の(PBP)Ir(H)Cl錯体を合成した。X線結晶構造解析によりこれらの錯体はホウ素平面と(PBP)Ir平面が大きくねじれた構造を取っていることがわかった。NMRスペクトルよりねじれた構造のフリッピングが起こっていることも判明した。また、これらの錯体に対してn-BuLiを作用させると、(PBP)Ir(H)2錯体が生成した。まずn-BuLiがクロロ配位子と置換反応してアルキルヒドリド錯体が生成した後に、β-ヒドリド脱離および1-buteneの解離(1H NMRスペクトルにより確認)を伴ってジヒドリド錯体が生成したと考えている。 (3) (2)で合成した側鎖が長くtBu基が置換した5配位の(PBP)Ir(H)Cl錯体および(PBP)Ir(H)2錯体をシクロオクタンの脱水素移動反応に適用した。側鎖が短い誘導体では全く触媒活性を示さなかったのに対し、この錯体は最高でTON 126の活性を示した。これはアルカンのC-H結合がIr(I)に酸化的付加した際に発生するアルキルヒドリドIr(III)錯体からホウ素と水素が脱離することでIr(I)アルキル錯体が発生、ここからのβ-ヒドリド脱離が加速したことが一因ではないかと推定している。(2)で合成した側鎖が長く脂肪族骨格を持ちtBu基が置換した配位子を有する(PBP)Ir(H)Clおよび(PBP)Ir(H)2錯体はジメチルアミンボランの脱水素化において高効率な触媒として作用することを明らかにした。触媒量は0.05 mol%まで減ずることが可能であり、反応初期のTOFは約3400/hとなった。
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