研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
24109014
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉澤 一成 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30273486)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 量子化学 / 酵素反応 / 電子物性 |
研究概要 |
理論化学計算は、実験的に観測困難な化学種の構造、反応、物性の研究に極めて有効な研究手段である。金属酵素は通常は困難な化学反応を常温常圧で高選択的に触媒している。本研究では、金属酵素に生成して、高い反応性を示す“感応性化学種”の理論化学的研究を領域内の実験系研究者と行った。とくに、メタン活性化、窒素固定、水分解などの精緻な生体化学反応に関わる活性種の構造と反応性の相関に焦点を当て、これを量子化学計算により研究を行った。反応過程で生じる不安定活性種を実験的に補足することは極めて困難である。一般に詳細な化学反応経路の研究を行うためには、量子化学計算に基づく素反応レベルでの理解が不可欠である。本研究では、酵素触媒での反応活性種の研究を量子化学計算により行うとともに、実験研究者と連携して、酵素触媒反応種の状態変化と活性制御に関するわれわれの理解を飛躍的に深化させ、人工酵素の開発へと展開した。とくに、人工窒素固定触媒の実験事実と理論計算の結果を組み合わせ、反応系中で生成する鉄活性種を推定した。その活性種は低配位の鉄(II)錯体である。一般に鉄(II)錯体は窒素を活性化できないと考えられているが、電子供与性の高いSiMe3基を配位子に持つことで鉄中心の反応性が向上した結果、配位した窒素分子を活性化することが可能となった。鉄を触媒とした、理論的に妥当な反応機構を示すことに成功した。触媒的シリルアミン生成は、鉄活性種に配位した窒素分子がシリルラジカルの攻撃を受けて、窒素-ケイ素結合が段階的に生成することで始まる。途中で窒素-窒素結合の開裂を伴い、シリルアミンが1分子ずつ生成することを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
米国のルイビル大学、東京大学、京都大学、大阪大学、筑波大学との共同研究が大きく進展し、それらの成果は、Nature Communications、Accounts of Chemical Reserach、Journal of the American Chemical Society、ACS Catalysis、Angewandte Chemie International Edition、Chemistry European Journal、Organometallics、Journal of Physical Chemistryなどの評価の高い学術誌に掲載されている。金属酵素活性点と周辺タンパクの相互作用と外部刺激応答性錯体のスピン転移継続的について研究することができた。銅二核構造を活性点にもつpMMOについて、メタン酸化反応機構について研究を行い、その成果をInorganic Chemistryに発表できた。金属置換ゼオライト(主に鉄と銅の置換型を考える)による一酸化窒素の分解ついての研究も行い、ゼオライトのルイス酸点、細孔の影響を考慮するためのQM/MM計算を実行した。その成果はACS Catalysisに投稿中である。とくに特筆すべき成果として、人工窒素固定触媒の実験事実と理論計算の結果を組み合わせ、反応系中で生成する鉄活性種を推定している。その成果はプレスリリースされ、日本経済新聞その他において報道された。これらの観点から、本研究は投書の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
金属酵素活性点と周辺タンパクの相互作用と外部刺激応答性錯体のスピン転移継続的について研究する。25年度の結果を踏まえて大規模量子化学計算を実行し、引き続き銅二核構造を活性点にもつpMMOについて、メタン酸化反応機構について研究を行う。sMMOと芳香族アミノ酸酸化酵素の活性点は、それぞれ、鉄二核と鉄単核である。これらの活性点モデルのQM計算を行い、活性種およびそれと反応物との相互作用を明らかにする。次いで、QM/MM法による大規模計算を実行する。メタン酸化酵素の解析をヒントに、金属置換ゼオライト(主に鉄と銅の置換型を考える)によるメタン酸化触媒ついての研究も開始する。まず、QM計算を実行し、ゼオライトのルイス酸点、細孔の影響を考慮するためのQM/MM計算を実行する。最近、ゼオライトの吸着作用が放射性同位体などの環境汚染物質の除去に有効であることが分かり、その金属吸着能のも注目する。さらに、前年度までの成果に基づいて窒素固定や水分解の理論研究を展開する。 領域内研究者との連携研究を実施する。A04班の杉本、小江、井上は、さまざまな機能を有する金属酵素の専門家であり、人工モデル酵素の構築、新しい酵素の探索、反応析、など幅広い実験的バックグランドを持っている。申請者は、これら三名の研究者との緊密な連携の下に、A04班の連携研究を強力に推進する。さらに、A01班の松尾は、ゲルマノン(Ge=O)やシラノン(Si=O)の高度に分極した結合によるメタンの活性化研究を企画しており、我々のこれまでに蓄積した知識を生かしつつ、理論実験の連携研究を実施する。A03班の小澤とは、ピンサー型錯体触媒について電子状態解析および反応解析を行う。
|