計画研究
(1)研究期間中に使用するモデルを確定し、その整備を行った。WRF-Chem, WRF-CMAQ, AIST-MM, MRI-EMTACS, MM5+LHIRAT(以上領域モデル), WRF-FLEXPART, NICAM+SPRINTARS, MIROC+SPRINTARS(以上全球モデル)が参加している。これらのモデルによるシミュレーションのために必要な物理・化学過程、地表面データ、排出シナリオについて整備をおこなった。2011年3月と4月の計算を開始し、モデルが観測データの主な特徴を再現することを確認した。また、県スケール程度の中距離での環境データを用いた放出率逆推定を行い、新たな排出シナリオを作成した。これらの研究過程で、モデリング誤差を縮減するためには放射性物質の湿性沈着と乾性沈着のパラメタリゼーションのさらなる調整が重要なことも明らかになった。(2)シミュレーション結果と比較するための、雲分布、降雨レーダのデータ、気象データ、空間線量率、放射性核種ごとの沈着データ、エアロゾルおよび気体の大気中濃度のデータを整備した。その結果、自治体が有する多数のベータ線吸収式大気浮遊粒子状物質自動計測機データから大気中のセシウム137の1時間ごとの時系列が世界で初めて得るなど、事故直後の放射性核種の大気中の挙動に関する知見を得た。(3)気象場と衛星画像を分析して、雲・降水が及ぼす沈着過程への影響評価が行われた。(4)得られた成果をとりまとめて、学術雑誌と国内外の研究集会にて発表を行った。またマスメディア対応も行った。(5)日本学術会議「原発事故による環境汚染調査に関する検討小委員会」のモデル比較ワーキンググループの活動に貢献した。世界に呼びかけ、9領域大気モデル、6全球大気モデル、7海洋モデルの比較が始まった。
2: おおむね順調に進展している
各分担者と連携研究者、研究協力者が十分準備を行って来たために、初年度におけるモデル準備とデータ整備は順調である。計画したモデルからの放射性セシウム、放射性ヨウ素に関する2011年3月と4月の結果が集まり、相互に比較中である。特に、ダイアモンドNICAMと呼ばれる次世代型の非静力学モデルに組み込まれたSPRINTARSエアロゾル・モデルが稼働して、放射性物質の輸送が数キロメートル分解能で得られ始めた。これはSPRINTARSが組み込まれたNICAM全球非静力学大気モデルやMIROC気候モデルが持つ全球計算能力に加えて、新たに領域計算能力を追加するものであり、これによってSPRINTARSが全球と領域の両方をカバーすることができるようになった。このことは、モデル開発者の少ない我が国においては恩恵が大きいと考えられる。すでに、観測データとの比較も始まり、この部分については計画よりも若干早い達成度である。
他班から出てくる観測データとの比較によるモデルの検証を積極的に進めたい。また課題は社会対応を含むために、政府、学術会議等の動きに対応できるよう心がける。
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