研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
24110004
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
山田 正俊 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 教授 (10240037)
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研究分担者 |
加藤 義久 東海大学, 海洋学部, 客員教授 (00152752)
永井 尚生 日本大学, 文理学部, 教授 (10155905)
津旨 大輔 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (10371494)
本多 牧生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球表層物質循環研究分野, 上席技術研究員 (20359160)
鄭 建 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 主任研究員 (30370878)
浜島 靖典 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (60172970)
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 助教 (60447381)
熊本 雄一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任技術研究員 (70359157)
青山 道夫 福島大学, 環境放射能研究所, 特任教授 (80343896)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 環境動態解析 / 放射性物質 / 環境分析 / 福島第一原発事故 / 海洋 / 海洋拡散シミュレーション |
研究実績の概要 |
(1) 2015年夏の東経165度線での観測によると、中央モード水に相当する密度には事故由来の放射性セシウムはほとんど見いだされなかった。すでに東へ輸送されたと考えられる。東経165度線でみると亜表層で北緯2度に達する早い南向きの輸送が見いだされた。また、2014年以降東電福島第一原発事故により海洋環境に放出された人工放射性核種のごく一部が日本の西部に再循環で戻ってきていて、亜熱帯モード水の密度25.5付近の表層水中で、わずかながらの134Cs放射能の濃度上昇が見出されている。 (2) モニタリング試料の129I測定により、129I/137Csが0.3と0.04-0.07の2グループと大別され、海洋への直接流出の他、129Iの除去された後に放出という過程の存在が示唆された。 (3) 太平洋を北極海から南極海を縦断して、表面海水中の放射性セシウムを測定した。同じ時期に測定されたデータと合わせることで、福島原発事故後約1年半後の、北太平洋のほぼ全域における福島事故起源の放射性セシウムの拡がりを明らかにした。 (4) 福島原発沖に設置してある時系列式セジメントトラップ実験の結果、捕集粒子の主成分が鉱物粒子であること等から福島原発事故由来の放射性セシウムが沈着した福島原発沖海底堆積物が再懸濁し、大陸斜面に水平輸送されている様子が窺えた。また秋季に見られた放射性セシウム濃度・フラックスの増加は台風が接近・通過することで、より浅い水深の海底堆積物が再懸濁し水平輸送されたと推定された。 (5) 福島第一原発事故によって、大気からの降下および直接漏洩によって供給された137Csの4年間の領域海洋スケールのシミュレーションを実施し、直接漏洩率の時間変動を推定した。また、北太平洋スケールのシミュレーションを4年間実施し、観測結果との比較によって、西への移流や中層水への潜り混みなどの挙動を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)北太平洋の外洋域において、放射性セシウム測定のための海水試料を採取し、同海域における福島原発事故起源放射性セシウムの拡がりを明らかにした。事故から約10ヶ月後に実施したおおよそ東経149度線に沿った観測では、北太平洋亜熱帯モード水の沈み込みに伴って、事故起源放射性セシウムは亜熱帯域の亜表層を速やかに南へ運ばれている事実を明らかにした。一方で、混合海域・亜寒帯域においては、事故起源放射性セシウムは東向する表面海流に沿って北太平洋を横断している様子が推察された。このように南北で放射性セシウムの拡散過程に違いが明らかになりつつあるため。 (2) 2014年までに採取した海水試料の129I、134Cs、137Csの分析はほぼ予定通りに完了し、 福島沖から北部北太平洋における2014年までの129I、134Cs、137Csの3次元分布・インベントリ・経時変化を明らかにできたため。 (3)環境試料(海水・土壌・生物)中の放射性ストロンチウム分析に必要となる迅速分離法を開発し、学術誌に発表した。特に分析の困難とされる海水試料についてこの新規分析法を適用し、原発近傍での詳細な汚染拡散状況のマッピングを実施している。放射性セシウムとの相互比較により原子炉滞留水・地下水・汚染処理水など海洋への汚染源となり得る候補について、時系列的な変動も考慮した同定を行ってきた。原発近傍における経時的な変動についても解析を進め、汚染源の解明を行っているため。 (4) 複数点・複数層における時系列式セジメントトラップでの沈降粒子の捕集および沈降粒子中の放射性セシウムの分析は順調に行われた。解析の結果、福島起源放射性セシウムの海洋内での鉛直輸送速度、存在形態、海底堆積物の再懸濁と水平輸送状況等の新たな知見が得られ、それらは論文発表・学会発表・プレス発表により適宜公表されており初期の目的は達成されつつあるため。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 2014年夏季に、北太平洋亜寒帯域を横断する北緯47度線上で放射性セシウム測定用の海水試料を採取した。平成28年度中に、これらの海水試料に含まれる放射性セシウムの測定を終了して、北太平洋亜寒帯域における福島事故由来放射性セシウムの分布とその原因を明らかにする。 (2) 2015年度までに福島沖で採取した試料の129I、134Cs、137Csの分析を行い、結果を取りまとめて公表を行う。モニタリング試料の129I測定を完了させ、事故直後の放射性核種の多様な海洋への放出過程・経路を明らかにし、結果を取りまとめて公表を行う。 (3) 海水試料中Cs同位体とPu同位体の同時測定法を確立し、福島原発事故初期海水中Cs同位体とPu同位体を測定する。海水中137Csの長期動態研究に新たなトレーサー(135Cs/137Cs同位体比)を提示する。 (4) 事故後の領域スケール、北太平洋スケールにおける137Cs濃度分布の再構築において、領域スケールに対する大気からの降下の影響の推定には大きな誤差が残されている。複数の大気モデルの結果を用い、領域スケールの海洋に対する初期の大気からの降下の影響を推定する。その際、初期の海洋観測データが不足しているため、動的海生生物移行モデルによって推定された初期の海洋中の137Cs濃度も検証に用いることとする。これらの検討によって、海生生物の汚染メカニズムを推定するとともに、大気への放出率の推定の精度向上のための知見を提供する。 (5) 福島沖海底堆積物中の放射性セシウムの挙動解析、陸上からの供給過程解析等の結果と併せて福島沖海底堆積物中の放射性セシウムの滞留時間等について検討する。
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