研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
24110007
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹中 千里 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (40240808)
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研究分担者 |
大久保 達弘 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10176844)
関本 均 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10261819)
金子 信博 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 教授 (30183271)
柴田 理尋 名古屋大学, アイソトープ総合センター, 教授 (30262885)
古川 純 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40451687)
肘井 直樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80202274)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性セシウムの移行 / 表面吸収 / 経根吸収 / リター分解 / 土壌微生物 / ジョロウグモ / ミヤコグサ / シカ |
研究実績の概要 |
本研究では陸域生態系の中でも森林と里山の生態系(森林-農地)に焦点を絞り、土壌、植物(樹木・草本)、哺乳類、昆虫、土壌生物(土壌動物・微生物)を主たる構成要素として、これらの要素間および要素内での放射性物質の動態の定量的把握とそのメカニズムの解明を目的としている。対象とする森林は、コナラを主体とする広葉樹林とスギ林とする。 樹木における放射性セシウムの吸収と移行については、スギ・コナラ苗木において経根吸収が行われていることは明らかとした。スギでは系統間による違いが確認された。スギとコナラにおいて、葉面だけでなく樹皮からも吸収されることを確認した。リターを介しての移行については、森林リター中の植物可給態放射性セシウムがA0層に移行するとA0層の全量の0.1%程度が付加されることが算出された。 動物・昆虫を介しての放射性セシウムの移行については、食物連鎖を通じての放射性物質の移行がみられることが明らかとなった。シカにおける放射性セシウムの分布は、糞に多く含まれていることが明らかとなった。また、土壌生物による放射性セシウムの移行においては、リターバッグ実験の結果、分解が進行するにつれて放射性セシウム濃度が増加することを見出し、カビバイオマスとの関連性を確認した。農地における放射性セシウムの移行では、イネでは品種間の差が大きく、セシウムの取り込みが遺伝的に制御されていることが明らかとなった。また玄米中に含まれる放射性セシウム量はカリウムと窒素の施肥法によって制御できることを見出した。モデル植物であるミヤコグサを用いた研究では、セシウム吸収に関わる遺伝子のQTL解析から、現在までに3つの候補領域を得ており、その中にはカリウムの輸送体などセシウム輸送への関与が期待される遺伝子が複数含まれていることをみいだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象とする調査地は、放射性セシウムの沈着量が比較的高い福島県伊達郡山木屋地区(1000-3000kBq/m2)、中程度である福島県郡山市の福島県林業研究センターおよび栃木県那須地区(100-300kBq/m2)、さらに低レベルである宇都宮大学演習林(30-100kBq/m2)であり、各サイトにおいて、森林生態系の各コンポーネントにおける関する調査を行ってきた。その結果、それぞれの各パーツにおける主なメカニズムの要因は把握できた。最終的な取りまとめとしてのモデル構築に向けて、最低限のパラメータは取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗状況を踏まえ、リター、土壌、農地グループを合併し、地表班として今後の研究を進めていく。以下の6テーマに焦点を絞る。 (1)モデル構築:FORESTLANDモデルをベースとし、STELLAを用いてさまざまなコンポーネントにおける放射性セシウムの蓄積、各コンポーネント間での移動のシミュレーションを可能とする。(2)生態系内の放射性セシウム循環量からの沈着セシウム化学形態の推定:事故直後に植物体内に吸収された放射性セシウムがイオン態であったと仮定し、植物体内に存在し移行している放射性セシウムの量と、航空機観測で得られている土壌表面への沈着量との関係から、沈着時の化学形態の推定を試みる。(3)樹木における放射性セシウムの吸収と移行:川俣町山木屋地区世戸八山において、スギ、コナラ、アカマツの成木における放射性セシウムの分布を調査することにより、土壌中の化学形態の吸収への影響や、経根吸収の樹種による違いを確認する。(4) 動物・昆虫を介しての放射性セシウムの移行:モニタリングを継続し、移行過程を他元素の動態との関係を明らかにする。(5) 地表における放射性セシウムの動態・移行:林床の堆積有機物層、鉱質土層の放射性セシウム濃度の定量的な評価、およびリターにおける化学形態の変化に関する要因解析を行い、モデル化に向けてのパラメータ決定を目指す。(6)モデル植物を用いた放射性セシウムの吸収・輸送メカニズム:ミヤコグワ、ポプラを用いて、セシウム吸収関連遺伝子の特定を行う。 上記6テーマにおいて特に、(1)と(2)は他計画研究班との連携を進めながら集中的に推進する。(3)、(4)、(5)では、(1)のモデルに対するパラメータ提供を進めていくとともに、(6)の結果とあわせて各プロセスのメカニズム解明を目指す。
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