研究領域 | 免疫四次元空間ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
24111002
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
高田 慎治 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンタ―, 教授 (60206753)
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研究分担者 |
大久保 直 北里大学, 医学部, 准教授 (10450719)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 発生・分化 / 免疫学 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
1 胸腺皮質細胞におけるWntの機能と空間分布についての解析:Wntレポーターマウス等を用いて、胸腺上皮細胞におけるWntシグナルの作用点を解析した結果、胸腺皮質においては約半数の上皮細胞においてWntの活性化が起きていることが明らかになった。これらWnt活性化細胞においては、未分化マーカータンパク質が発現していたことから、Wntは未分化な胸腺皮質上皮細胞にて機能しているものと考えられた。 2 Wntタンパク質のイメージング系の構築:アフリカツメガエル胚をモデル系に内在性Wnt8とWnt11タンパク質の空間分布を解析した。Wnt8は組織レベルでは濃度勾配を作って分布し、細胞周囲においては局所的にクラスタを形成していた。一方、Wnt11はそれとは異なる特徴的な分布パターンを示した。また、Wnt11のライブイメージングを行い、Wnt11の極性化と細胞の変形との間に相関性があることが明らかになった。 3 Wntの局在、挙動、活性に影響をもたらす分子の解明:Wnt8のクラスタ化については、ヘパラン硫酸の硫酸基転移酵素が内在性のWnt8のクラスタ化とシグナル伝達因子の集合に必須であることを明確にした。この硫酸基転移酵素の活性量が内在性Wnt8の空間分布を制御する可能性についても検討したが、実験系における検出感度の問題等から、明確な回答を得ることは難しいものと判断した。一方、Wnt11の空間局在については、Wnt8とは異なるヘパラン硫酸鎖が関与することが示唆された。 4 咽頭内胚葉の発生機構の解析:Ripply3と相互作用する因子の機能を検討するため、同因子とRipply3に対する抗体を調製し、細胞内局在を解析した。また、咽頭弓形成におけるRipply3とレチノイン酸の相互作用についても明らかにした。一方、魚類ではPax1が咽頭弓形成の鍵因子であることを変異体を用いて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に示す個別項目ごとの成果を総合的に判断した結果、本研究はおおむね順調に進展していると考えられた。 1:胸腺皮質細胞におけるWntの機能と空間分布についての解析については、Wnt活性化細胞の特定に成功したことから、胸腺皮質細胞の分化・増殖に対するWntの作用点がほぼ同定できたと考えられる。このことは、胸腺におけるWntの機能解析を進める上で着目すべき点が明確になったことを意味しており、研究は順調に進んでいるものと考えられる。 2:Wntタンパク質のイメージング系の構築については、Wnt11のライブイメージングに成功したことから、当初の目的の達成できたものと判断した。 3:Wntの局在、挙動、活性に影響をもたらす分子の解明については、Wnt8の他に、Wnt11においても空間分布の制御に関わる因子の候補が特定できたことから、順調に進展していると考えられる。 4:咽頭内胚葉の発生機構の解析については、Ripply3と相互作用する因子の解析に重要な抗体の調製に成功し、今後の研究を進めるための基盤が形成できた。また、小型魚類を用いた研究においては、咽頭弓形成の鍵をにぎる因子の同定と機能解析にも成功し、予想以上の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を発展させて、今後は以下のような研究に取り組む。 1 胸腺皮質細胞におけるWntシグナルの機能と制御についての解析:胸腺皮質上皮細胞において、Wntシグナルの活性が強い細胞に着目し、これら細胞の機能とそこにおけるWntシグナルの役割を解析する。特に、胸腺皮質上皮細胞において特異的にWntシグナルを阻害するとともに、Wntシグナルが活性化した細胞の系譜追跡を行うことにより、胸腺上皮細胞の分化に対するWntシグナルの機能を検討する。 2 Wntタンパク質の局在制御系の構築:Wntタンパク質の局在化を時空間的に解析することを目的に、アフリカツメガエル胚をモデル系にWntタンパク質の空間分布を人為的にコントロールすることを試みる。すでに作製した抗Wntモノクローナル抗体をベースに膜蛋白型の人工抗体を作成し、Wntタンパク質の空間局在を変化させる。そのような条件下において、Wntの作用の変化を解析し、Wntの空間分布が細胞の極性形成等に与える影響を検討する。 3 Wntの局在、挙動、活性に影響をもたらす分子の解明:昨年度までの研究から、内在性のWnt8ならびにそれ以外のWntが、細胞周囲において各々特徴的な空間分布を呈することが明らかになり、その制御にヘパラン硫酸の糖鎖修飾が関わることが示された。今年度は、その制御機構を解析する。 4 咽頭内胚葉の発生機構の解析:Ripply3と相互作用する因子について、機能解析を進める。そのためにRipply3結合因子として特定した因子のノックアウトマウスの表現型の解析を行うとともに、Ripply3変異体における咽頭内胚様の異常を細胞レベルで解析する。一方、魚類の咽頭弓の発生機構がマウスとは異なることに注目し、その発生に関わる分子の機能解析を下の無編集技術により作製した変異体を用いて行う。
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