計画研究
われわれは既に、リンパ節への血行性のリンパ球トラフィキングがリンパ節高内皮細静脈(HEV)に発現するリゾホスホリパーゼautotaxin (ATX)とその産物のリゾリン脂質・リゾホスファチジン酸(LPA)により制御されることを明らかにしている。今回、分担研究者の梅本、片貝らとともにノックアウトマウスを用いた解析を行い、この現象においてリンパ球上ではLPA2、HEV内皮細胞上ではLPA4, LPA6がLPAシグナリングを受ける主な責任受容体であることが明らかになった。LPA4, LPA6を介したシグナルは、ともにRhoを活性化し、内皮細胞の運動性を亢進させ、リンパ球のtransmigrationを亢進する。また、リンパ球、樹状細胞が流入するリンパ節の被膜下洞にもATXが発現し、特に辺縁洞直下の2種類のストローマ細胞、すなわち、辺縁細網細胞と線維細網細胞に強い発現が見られ、分担研究者の片貝による解析から、T細胞の線維細網細胞を介した間質内移動はATX/LPA依存的に促進されることが明らかになった。これらのことは、リンパ節内の特定のストローマ細胞が産生するATXが、LPA産生を介してリンパ球の血行性、リンパ行性動態の両者を制御し、リンパ節への流入、間質内での移動の両方を制御することを示す。ストローマ細胞は、これまで特定のサイトカインやケモカインを産生しリンパ球動態を制御すると考えられてきたが、LPAという特定の生理活性リン脂質を産生することによりパラクライン、オートクライン的にリンパ球動態を制御するという新しい分子機構の存在が確認された。
1: 当初の計画以上に進展している
生体内のもっとも重要な二次リンパ組織でのリンパ球の動態が特定のストローマ細胞により制御され、ストローマ細胞が産生する生理活性リン脂質LPAとLPA受容体を介した特定のシグナル経路がその制御機構の主体であることが明らかになってきた。これは免疫細胞動態制御機構に関する新しいパラダイムの存在を示唆する。これまで、リンパ球がリンパ節を離れる際にはリンパ管内皮細胞が産生する生理活性リン脂質S1P (sphingosine-1-phosphate)がリンパ球のstop-goを制御すると考えられてきたが、S1Pとは異なるストローマ細胞により産生されるLPAも強いリンパ球動態制御能を持つことから、(1)二次リンパ組織を構成する複数のストローマ細胞サブセットがリンパ球動態を制御すること、(2)それぞれのサブセットはサイトカイン、ケモカインの他に、独自の生理活性リン脂質を産生することによりそれぞれ異なるメカニズムによりリンパ球動態を制御すること、(3)特定のLPA受容体を介したシグナルがこの現象を司ること、が明らかになった。これらの新規知見は、新たなパラダイム構築に資するものであり、当初期待していた成果を大きく超えるものである。また、領域内の共同研究として理研の石川文彦博士とヒト化マウスにおける免疫不全の原因を調べた。その結果、ヒト化マウスのリンパ節ではT細胞、B細胞は存在するものの数が少なく、さらにT細胞、B細胞領域の構築不全があることが新たにわかった。興味深いことにlymphotoxinシグナルを外部から補充することによりT細胞数と領域の構築不全は改善したが、B領域における濾胞形成は改善しないままだった。今後、ヒト化マウスの免疫系改善のために継続して共同研究を行う。
これまでわれわれ独自の結果および海外の結果を併せると、LPAはリンパ節への免疫細胞の流入(ingress)と間質内の移動に関わる一方、S1Pは免疫細胞のリンパ節からの流出(egress)に主に関わることが推測される。しかし、S1P1受容体を介するシグナリングが可視化できるレポーターマウス(M. Kono et al; JCI, April, 2014)では、明らかにHEVにおいてS1P受容体の下流シグナルが活性化している。このことはS1P1シグナリングとLPAシグナリングのクロストーク現象の可能性を示唆する。このことから、研究代表者の宮坂と分担者の梅本は、S1P1ノックアウトマウスと野生マウスを比較しながら、HEV, リンパ節間質、被膜下洞、それぞれにおけるLPA依存性の免疫細胞動態を検討する。また、分担研究者の片貝は、マウスリンパ節の各ストローマ細胞サブセットに発現することが明らかになった新規分子に注目し、それらの組織、細胞内における三次元的な分布を決定するとともに、そのストローマ細胞サブセットと免疫細胞サブセットの機能的な関連を追及する。特に免疫細胞の動態制御と免疫応答における組織構造の変化に関して、イメージングを中心とした観察により明らかにしていく。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 5件)
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