計画研究
本研究では、X線結晶構造解析と電子顕微鏡イメージングという分解能の異なる手法を併用し、免疫-神経インターフェースの素反応を司る分子実体の構造生物学的解明を目指している。主なターゲットとして、(1)インテグリンを中心とした接着受容体の解析と、(2)セマフォリン(Sema)・プレキシン(Plexin)系を中心とした細胞間シグナル授受メカニズムの解析、さらに本年度途中からは、(3)神経細胞やニッチ細胞の恒常性維持に働く蛋白質の構造機能解析も行った。研究1(インテグリン受容体系):ラミニン結合性α6β1インテグリンについては、結晶化を目指してコンストラクトの改良と、構造安定化のための抗 α6抗体フラグメントの作成を行った。また、フィブロネクチン受容体であるα5β1インテグリンをヒト胎盤から精製する方法を確立し、これを脂質二重膜(ナノディスク)に活性のある状態で組み込み、電子顕微鏡によって1分子の形状をとらえるところまで成功した。研究2(セマフォリンシグナル系):Sema受容体のPlexinの2つのサブタイプ(A1およびD1)について、その細胞外領域蛋白質を作成して電顕イメージングにより構造解析に成功した。また、骨芽細胞の分化誘導を司るSema4D- Plexin B1シグナルを阻害する環状ペプチドを発見し、これとPlexin B1の複合体の結晶化に成功した。さらに、神経系および免疫系で働くSema3Aについて、その受容体結合に必須の構造モチーフを同定することに成功した。研究3(神経、ニッチ細胞系):ニューロン特異的受容体蛋白質sorLAについて、それがアミロイドペプチドを結合してリソソーム分解系へ運ぶことにより、アルツハイマー病発症から脳を守る働きをしていることを発見した。また、sorLAとアミロイドペプチドの複合体の結晶構造解析にも成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
間にそのネイティブ精製とナノディスクへの組み込みに成功し、これまでだれも成功していない、β1インテグリンの「膜上での形状観察」に向けた準備が整った。研究2についても困難が予想された巨大なプレキシン細胞外領域全長蛋白質の電子顕微鏡イメージングに成功し、骨粗鬆薬のリードとなる可能性があるペプチド取得とその構造解析が視野に入るなど、予想を上回る成果が上がってきている。さらに、最近の研究の新展開によって本領域研究の中で行う必然性が高まり、年度途中で研究項目に加えた研究3においては、上記のようにアルツハイマー病の病因解明につながる発見をすることができた。この成果は新聞、テレビなど各種メディアに紹介され、本学術領域研究からの社会への発信という意味でも極めて重要な貢献をした。よって総合的には「①当初の計画以上に進展している」と自己評価する。
上記のように、研究項目すべてで順調、もしくは予想を上回るペースで研究が進んでいる。研究1については今後インテグリンの細胞内からの活性化の真の姿を世界で始めてイメージングすることを目指し、ドイツの研究者と共同研究を行うことで同意した。研究2では領域内の石井優教授(総括班連携研究者)に細胞機能研究において協力していただく予定である。研究3においては、今後ニッチ細胞機能の研究を強化するためのさらなる計画変更(追加)を予定しており、Wnt蛋白質についての構造生物学・蛋白質科学的研究において、高田慎治計画班員などとの連携についてすでに話し合っている。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 5件)
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