計画研究
ユビキチン修飾系は、時空間的選択性をもってタンパク質を識別し、ポリユビキチン鎖などの多様な様式のユビキチンを結合させることでタンパク質の機能を制御することにより、様々な生命現象に重要な働きを果たしている。中でも、基質特異性を決めるユビキチンリガーゼ(E3)の研究は、ユビキチン修飾系の中核をなす研究である。ユビキチンネオバイオロジーを理解するためには、ヒトに約600種存在するE3が時空間的選択性をもって識別する特異的基質の同定とその機能解明が不可欠である。本研究では、E3、中でもCullin型E3およびTRIM型E3に対する基質を分離・同定し、さらにはこれら酵素・基質関係により制御される生命現象を解明することを目的とする。DNAデータベースを利用しCullin型およびTRIM型E3の網羅的クローニングを行い、これらE3と相互作用する因子の同定を進めている。Cullin 型E3であるSSB4がシグナル伝達に、Zyg11Bが細胞死に、ASB12が細胞骨格に、ASB7が中心体複製に、さらにはPrameが転写に関与していることを見出しており、これらの細胞生物学的解析を進めている。TRIM型E3に関しては、網羅的な生化学的解析により細胞分化やDNA修復に関与するTRIMタンパク質を同定しており、分子生物学的解析によりクロマチン制御に関する新たな機能が判明してきている。特に、TRIM23が脂肪細胞分化制御因子であるPPARを制御することで、脂肪細胞の分化成熟に関与することが明らかとなった。また、TRIM29がDNA修復因子群と相互作用し、DNA修復の足場として機能することが判明した。さらに、TRIM29は扁平上皮細胞に特異的に発現し、上皮細胞分化の制御因子であるp63やZEB1の発現調節に関与することが判明した。現在、TRIM29のクロマチン上で役割に関して詳細な機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
現在までに複数のE3に対する新規基質を明らかにし、その細胞生物学的意義の解析を行っていることより、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
Cullin型およびTRIM型E3ユビキチンリガーゼに対する基質の網羅的解析今までに引き続きCullin型およびTRIM型E3に対する基質の同定およびその機能解析を行う。① Cullin型およびTRIM型E3との結合を指標とした基質の同定 DNAデータベースを利用しCullin型およびTRIM型E3を網羅的にクローニングし、免疫沈降法および質量分析法の組み合わせや酵母2ハイブリッド法により相互作用するタンパク質を同定し、内在性タンパク質レベルで新規基質候補タンパク質を確定する。② 機能的アッセイを用いたE3の新規基質候補タンパク質の絞り込み 野生型あるいは不活性型のE3の過剰発現あるいはRNA干渉法によるE3の発現コントロールを行い、新規基質候補の半減期への影響を検討する。この過程で同定した基質が分解に導かれるかどうかを選別ができる。試験管内あるいは培養細胞内でE3の新規基質へのユビキチン修飾能を検討する。③ E3による新規基質の制御の役割の細胞レベルでの検討 新規基質のアミノ酸配列よりその生体内での機能を予測する。E3の過剰発現あるいはRNA干渉法によりE3の発現を抑制した細胞株を作製し、酵素-基質対応から推測される機能に基づいて、細胞増殖アッセイ、細胞周期解析などを行う。④ E3による新規基質の制御の役割の個体レベル、遺伝学的検討 E3のトランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作製し、発生や病理学的検索を行うと共に、③の結果より推測される現象に関して検討する。また、神経・心筋・線維芽細胞などの初代培養細胞を調製し、新規基質の発現量およびユビキチン化の有無を調べる。これらの初代培養細胞を用いて③で観察された現象を中心に解析する。⑤ 構造生物学的解析 計画研究08水島らと共同でE3-基質の結晶構造解析を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 11件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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