計画研究
BAG6は、神経変性疾患の原因となるタンパク質凝集の防御、あるいはミスアッセンブルされた膜タンパク質の選択的除去など、ユビキチン化反応と共役した細胞内タンパク質品質管理に必須の役割を有することが、我々を含めた米英各国の研究チームから報告されている(Minami et al., J. Cell Biol. 2010他)。そこで本研究では、BAG6がポリユビキチン化された不良タンパク質を認識する分子機構の解明を目指した。研究代表者は、本研究においてBAG6のN末端側領域に、新合成不良タンパク質と高い親和性を持つ新しいドメインを同定し、これをBUILDドメインと命名し出版した(Tanaka et al., 2016, FEBS J)。BUILDドメインは、隣接したユビキチン様ドメインとタンデムに並び、共同して疎水性を露出したポリユビキチン化ポリペプチドを認識する。また、BUILDドメイン自身がユビキチン類似の立体構造を持つユニークなドメインであることを明らかにした。さらに我々は,本領域の計画研究班員である加藤龍一准教授(高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究センター)らとの共同研究で、BAG6/UBL4A複合体の結合ドメインを新しく同定・定義し、さらにこの複合体のX線共結晶構造解析による立体構造解明に、初めて成功した(Kuwabara et al., 2015, JBC)。さらに、我々は本研究において,ミスアッセンブルされた不良膜タンパク質を選択的に認識し、そのユビキチン依存的代謝制御に関わる初めてのUBAドメインタンパク質として、UBIN/UBQLN4を同定し、その必須機能を報告した(Suzuki et al., 2016, EMBO Rep)。このように、これまでの成果の多くが一流国際誌に掲載されつつある状況である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、BAG6がポリユビキチン化された不良タンパク質を認識する分子機構の解明を目指した。その結果,BAG6の基質認識に関わるメカニズムの解析に大きな成果を挙げることが出来た。すなわち、(1)BAG6のC末端において、TAタンパク質の認識に寄与するBAGSドメインの同定とX線結晶構造の解明、(2)BAG6のN末端に存在し,不良ユビキチン化タンパク質の認識を司るBUILDドメインの初同定、(3)BAG6の中程に、小胞体膜へのアッセンブリに失敗した膜タンパク質の疎水性領域を特異的に認識し,ユビキチン依存的分解系へとターゲッティンッグする新規ドメインの同定などに成功、(4)BAG6が構造不良な膜タンパク質をユビキチン系依存的分解系にリクルートするために必須な新しいユビキチン識別タンパク質の同定にも成功した。これらの成果は、EMBO Rep誌やJBC誌など一流国際誌に掲載され、反響を呼んでいる状況である。
新規合成タンパク質の品質管理に必須なBAG6は、一群のユビキチン結合タンパク質が複合体を形成する足場を提供する。今後の本研究では、BAG6複合体中のユビキチン結合タンパク質多様性に注目し、識別するポリユビキチン鎖コードとの相関を念頭に、BAG6複合体が種々の基質を峻別する機構解明を進める。そのためには,BAG6複合体が標的基質を分解系へと誘導する機構を解明する。また、BAG6は、内在性抗原のT細胞への提示、神経変性疾患の原因となるタンパク質凝集の防御、あるいは膜タンパク質のアッセンブリ促進など、ユビキチン化反応と共役した細胞内タンパク質品質管理に必須の役割を有していることが、研究代表者らの最近の研究で明らかにされた。本研究で、BAG6複合体のポリユビキチン鎖識別の生理的意義について生化学的・遺伝学的な解析を進め、BAG6上でのユビキチン鎖デコードシステムの多様性が生体制御に果たす全く新しい役割を提案する。さらに、上記を念頭に,BAG6複合体が標的タンパク質を峻別する構造的基盤の完全解明を目指す。また我々は最近、BAG6と共同してミスアッセンブルされたユビキチン化不良膜タンパク質を認識し、生合成過程での運命を決定する新しいUBAドメインタンパク質を発見した。申請者は、このUBAドメインタンパク質がユビキチン化不良膜タンパク質の運命を決定するメカニズムを、CRISPRシステムを用いた遺伝子欠損系を確立することで明確に示す計画である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
EMBO Rep.
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doi: 10.15252/embr.201541402.
FEBS J.
巻: 283 ページ: 662-677
doi: 10.1111/febs.13618.
Mol. Cell. Biochem.
巻: 414 ページ: 1-12
doi:10.1007/s11010-015-2643-4
J. Biol. Chem.
巻: 291 ページ: 4649-4657
doi: 10.1074/jbc.M115.692871