計画研究
ユビキチンの多彩な機能を保証しているのがユビキチン修飾の構造多様性である。本課題は、ユビキチン修飾のリンケージタイプ・長さ・複雑さの解析法を作製し、ユビキチンコードを生化学的に解析することを目的としており、平成25年度は以下の解析を実施した。(1)Q-Q-Orbitrap型質量分析計を用いたMS/MS定量法(PRM:Parallel Reaction Monitoring)により、複雑試料から8種類全てのユビキチンリンケージを超微量(100 amol)から定量する系Ub-PRM(ubiquitin-PRM)法を開発し報告した。Ub-PRM法は従来法(ウェスタンブロット解析)の約1000倍高感度であり、これにより細胞内で生成するユビキチンシグナルを内在性のレベルで解析することが可能となり、ユビキチンリガーゼ変異体の細胞を用いた解析を実施したところ、Ufd4がマイナー鎖であるK6鎖およびK29鎖の生成に関与することが分かった。(2)ポリユビキチン鎖に対する高親和性プローブ(TR-TUBE:trypsin resistant-tandem ubiquitin binding entity)を開発し、基質に付加したユビキチン鎖長を決定する新手法Ub-ProT(ubiquitin chain-protection from trypsinization)法を確立した。Ub-PRM法によるユビキチン鎖の絶対定量法と組み合わせることで、細胞内に存在するポリユビキチン化基質の平均鎖長を決定したところ、K48鎖やK29鎖はテトラマー以上の比較的長いユビキチン鎖に含まれること、K11鎖、K63 鎖は比較的短いユビキチン鎖に含まれることが分かった。(3)ユビキチン化基質の効率的な網羅的同定のために、TR-TUBEと抗ユビキチン化ペプチド抗体を組み合わせた手法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
本課題はユビキチンシグナル全貌解明のため、質量分析計を駆使したユビキチン解析技術の開発応用を実施している。平成25年度は、最も重要な到達目標である高分解能質量分析計を用いた「ユビキチン鎖の種類の識別・絶対定量法の開発」に成功した(Ub-PRM法)。現在、領域内各研究班と共同で、重要基質に付加したユビキチン修飾、ユビキチン結合タンパク質群のユビキチン鎖結合特異性、ユビキチン化酵素の形成するユビキチン鎖特異性について鋭意解析している。一方、ユビキチン鎖の長さを決定する新手法(Ub-ProT法)の開発にも成功しており、出芽酵母中の各ユビキチン鎖の平均鎖長を論文化している段階である。複雑さについては、様々なユビキチン化タンパク質をUb-PRM法により定量化したところ、分岐鎖を含む基質タンパク質の候補をいくつか得ることに成功しており、今後、質量分析計を用いたMiddle-down解析により分岐鎖の存在を実証する。また、領域内においてユビキチン化基質の網羅的同定法のニーズが高く急務と考えられたため、今年度は抗ユビキチンペプチド抗体によるサンプル調製法など従来法を精査するところから始め、ポリユビキチン鎖に対する高親和性プローブと抗ユビキチン化ペプチド抗体を組み合わせることで、培養細胞抽出液1 mgより約1000種類のユビキチン化ペプチドを同定することに成功した。このように研究はおおむね順調に進展している。
今後、以下の研究を推進する。(1)質量分析計によるユビキチン鎖の識別定量法:既に、領域内の各研究者と共同で重要基質のユビキチン鎖の構造識別と定量を実施しているが、平成26年度についても領域発展のため鋭意推進する。(2)ポリユビキチン鎖の長さ及び複雑さの解析技術の開発と応用:これまで出芽酵母中の各ユビキチン鎖の平均鎖長を決定することに成功しているが、平成26年度はヒト培養細胞を用いた解析を実施する。また、デコーダー分子であるユビキチン結合タンパク質が細胞内で認識するユビキチン修飾を網羅的に解析することにより、細胞内ユビキチンネットワークの全容を解明する。一方、質量分析計によるポリユビキチン鎖のMiddle-down解析により、複雑さ(分岐鎖)の検出系を確立する。(3)ユビキチン化基質の網羅解析:ポリユビキチン化基質の効率的網羅的同定法の開発に成功しつつあるが、さらに定量プロテオミクスの手法を組み合わせ、サンプル間の比較定量を可能にする。本手法の開発に成功した暁には、ユビキチンリガーゼの過剰発現やノックダウン、あるいはノックアウト細胞を用いて、ユビキチンリガーゼ基質特異性を解析する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 6件) 図書 (2件) 産業財産権 (2件)
Genes Cells
巻: 19 ページ: 254-272
10.1111/gtc.12128.
Nature Commun
巻: 5 ページ: 3396
10.1038/ncomms4396.
Structure
巻: 22 ページ: 731-743
10.1016/j.str.2014.02.014.
Nature
巻: 印刷中 ページ: 印刷中