計画研究
本研究課題では、シリア・中心体系を経由した細胞内外からの情報フローが、細胞周期チェックポイントをどのようにに制御しているか、その分子機構を明らかにすることを主目的としている。これまでの研究で、一次シリアの形成抑制因子としてトリコプレイン(Trichoplein)を同定し、一次繊毛の形成には、トリコプレインのタンパク質分解が必要不可欠であることを示してきた。さらに、その分子機構として、トリコプレインはユビキチン化E3リガーゼであるCRL3-KCTD17によってポリユビキチン化され、プロテアソーム依存的に分解されることを報告明してきた。我々は今回、新たな一次シリア抑制因子としてNdel1(Nuclear distribution element-like 1)を同定し、Ndel1がCRL3-KCTD17によるトリコプレインの分解を阻害することで一次シリアを抑制する分子機構をを見出した。Ndel1低形質マウスでは一次シリアの異常による病態(肥満、腎異常)を示しており、Ndel1が生理的なシリア制御にも必須であることを証明した。さらに我々は、増殖細胞に一次シリアが形成されるとG0期停止を引き起こすことを明らかにしてきた。そこで、一次シリアから発信される増殖停止シグナルについて解析したところ、Cdk阻害因子であるp27 Kip1が一次シリアの形成依存的にタンパク質レベルで亢進することを見出し報告した。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究で、増殖細胞で一次シリアの形成を抑制するメカニズムとして、中心小体におけるトリコプレインによるAurora Aキナーゼ活性化を発見した。さらに、増殖停止に伴う一次シリアの形成メカニズムとして、ユビキチン・プロテアソーム系(CRL3-KCTD17 ユビキチンE3リガーゼ)によるトリコプレインの分解を明らかにし、さらに上流で働く制御因子としてNdel1が発見され、一次シリアの形成を制御する分子基盤が着々と明らかになっている。現在、さらに脱ユビキチン化酵素による一次シリアの制御機構にアプローチしているが、既にトリコプレインの脱ユビキチン化酵素を同定することに成功している。この脱ユビキチン化酵素は、増殖シグナル依存のリン酸化によって活性制御されることも見出しており、さらなる解析により一次シリアと細胞周期チェックポイントの分子基盤の解明につながると期待できる。また、一次シリアの形成がどのように細胞周期チェックポイント(G0期停止)を誘導するかの問題についても、Cdk阻害因子のp27 Kip1の発現レベル亢進を見出しており、今後の解析による進展が期待できる。以上の理由より、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価する。
今後の研究推進方策として、脱ユビキチン化酵素によるトリコプレインの安定化メカニズムを詳細に解析することで、増殖シグナルによる一次シリアの抑制機構を明らかにする。既に同定したいる脱ユビキチン化酵素は、受容体型チロシンキナーゼによってリン酸化され活性化されることを予備データとして得ている。今後、リン酸化部位を同定し、リン酸化による制御をin vitro及びin vivoで詳細に解析することでトリコプレインを中核としたシリア制御機構の全容解明を目指す。また、一次シリアが誘導するG0期停止機構の一因としてCdk阻害因子p27 Kip1の発現亢進を見出しているので、この分子機構も明らかにしていく。p27 Kip1のタンパク質レベルは主に分解機構により制御されることが報告されている。そこで、p27 Kip1のユビキチン化E3リガーゼであるKPC、Pirh2、Skp2などに着目して一次シリア形成の際に不活性化されるE3リガーゼを同定して、その不活性化機構にアプローチする。この方法で難航する場合を想定し、増殖条件にも関わらず人為的に一次シリアを形成させた細胞とコントロール細胞で、発現レベルに差があるタンパク質をDNAマイクロアレイなどで探索し、G0期停止の原因となる因子を同定する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
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