計画研究
脳の発生過程で、神経幹細胞は、対称分裂から非対称分裂へ、さらに霊長類などの複雑な脳に豊富な脳室外神経幹細胞へと分裂モードを変えるが、脳の基本構築はこのような分裂のモードとその遷移の制御に大きく依存している。また、新旧の中心体の非対称性が幹細胞の分裂の非対称性と相関することが知られており、中心体は神経幹細胞の分裂に際して、細胞内外の情報を非対称化する重要な細胞内小器官と考えられている。本研究では、(1)神経幹細胞の分裂の非対称化、および(2)上皮性神経幹細胞から霊長類型の神経幹細胞へ分裂モードの遷移、それぞれにおいて、中心体/シリア関連因子の果たす役割を解析する。中心体に局在する小頭症原因遺伝子の変異マウスにおいて、神経幹細胞の細胞周期の進行と染色体の分離に異常を検出している。これらの異常が神経幹細胞の非対称分裂に与える影響をslice cultureの刑を用いてい検討してきた。現在、さらに細胞死の頻度が高いことも判明している。今後、細胞周期と染色体分離の異常が細胞死の増加にどのように関係して居るのかを追求する。また、複雑脳のモデルであるフェレットの胎児脳にこれらの小頭症原因イン遺伝子の変異をCRISPR/Cas9システムを用いて導入することにも成功した。引き続き、この変異フェレット脳組織をスライス培養系を用いて解析し、小頭症原因遺伝子変異による脳形成の異常のメカニズムを検討する。H27年度の繰越の最も大きな理由はフェレットの変異の作成であった。この問題に対する対処は終了した。
2: おおむね順調に進展している
小頭症原因遺伝子の変異マウスと分裂軸に異常をきたすLGN変異を掛け合わせることでできる2重変異体では、細胞死が劇的に増加することを見出した。ヒトに較べ、マウスの小頭症原因遺伝子変異は表現型が弱いことが知られていた。マウスとヒトの脳発生の大きな違いのひとつは、霊長類や肉食類の脳発生途上には形成される新しい幹細胞層(外脳室帯)がマウスでは形成されないことであった。LGN変異により脳室外に幹細胞が分散することから、この2重変異では、霊長類などの複雑脳における小頭症原因遺伝子変異による小頭症発症のメカニズムを再現していることが考えられる。従って、この2重変異体はマウスにおける小頭症の研究の良いモデルとなる可能性を示唆している。
小頭症原因遺伝子の変異マウスと分裂軸に異常をきたすLGN変異を掛け合わせることでできる2重変異体では、細胞死が劇的に増加することを見出した。これは、ヒトをはじめとした霊長類に特徴的な幹細胞帯(outer subventricular zone)あるいはその形成過程が特定の小頭症原因遺伝子変異に対して非常に敏感であることを示唆している。今後、3つの課題が推進してゆく。1)他の小頭症原因遺伝子のマウスホモログでも同様なことが起きるかどうかを調べ、小頭症原因遺伝子に一般的なことであるいかどうかを検証する。2)脳室外に移動した幹細胞がなぜ小頭症原因遺伝子変異に対して鋭敏に反応して、細胞死を引き起こすのか、その原因を調べる。3)ここで得られた結果を実際にouter subventricular zoneを持つ動物の発生で再現されるかどうかを検証する。そのモデルとしてフェレットを使う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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