計画研究
中枢神経系脳では(特に大脳では)様々な機能を持った種々のニューロンが層構造を作って配列されることで高度なネットワーク/計算機能を発揮している。我々は神経細胞の遊走障害によって起こる中枢神経系の形成不全である滑脳症の研究に取り組んできた。中でも、LIS1はモータータンパンク質である細胞質ダイニンの制御因子であり、細胞質ダイニンを微小管上に固定する機能がることを明らかにした。最近の報告でカタニンP80の変異によって起こる滑脳症-小脳症が報告され、カタニンP80はLIS1と同様に細胞質ダイニンを微小管上に固定し、NuMAと協調して中心体周辺における微小管ネットワークの再編を制御していることを明らかにした。カタニンP80のsiRNAによるノックダウン実験によって多極の紡錘体形成や中心体の数、形状の異状を示した。この異状はNuMAも同様であり、両者のノックダウンではさらに異状の程度が増強し、機能的なつながりがあることが証明された。またin uteroで胎児マウスの脳でカタニンP80、NuMAをノックダウンすると神経幹細胞の分裂の異状と神経細胞形成の促進が見られ、さらに神経細胞遊走の遅滞も証明された。一方、精製チューブリン、細胞質ダイニン、組み替えタンパンク質としてカタニンP80、NuMAを用いたin vitroの微小管再構成実験ではカタニンP80は微小管をバンドリングする機能があることが分かり、NuMA、細胞質ダイニンを加えると強力なアスター形成能があることが分かった。さらにカタニンP80の変異型組み替えタンパンク質ではアスター形成が完全に失われることが分かった。これらのことからカタニンP80はNuMA、細胞質ダイニンとともに中心体で微小管ネットワークの再編を制御していることが証明された。
2: おおむね順調に進展している
カタニンP80は滑脳症-小脳症の原因遺伝子として同定されたが、カタニンP80の変異がなぜ滑脳症-小脳症をきたすかは不明であった。我々は精製チューブリン、細胞質ダイニン、組み替えタンパンク質としてカタニンP80、NuMAを用いたin vitroの微小管再構成実験ではカタニンP80は微小管をバンドリングする機能があることを明らかにし、NuMA、細胞質ダイニンを加えると強力なアスター形成能があることを証明した。このことはカタニンP80が中心体で微小管ネットワークの再編を制御しており、カタニンP80の変異は微小管再編の制御機構の破綻につながり、神経細胞幹細胞の分裂障害、神経細胞の遊走障害をきたすことが明らかとなった。この中でこれまでNuMAは細胞質ダイニンとともに微小管ネットワークの再編を制御していることが示唆されていたが、このカスケードの中でカタニンP80が重要な役割を果たしていることを明らかにすることができた。さらに滑脳症-小脳症のべつの原因遺伝子・WDR62が同定されているがWDR62の変異がなぜ滑脳症-小脳症をきたすかは不明であった。今回、WDR62の変異もカタニンP80と同様にNuMA、細胞質ダイニンを介して微小管ネットワークの制御を行っていることが明らかとなった。またカタニンP80、WDR62も細胞核と中心体をシャトルしているタンパンク質であり、NuMAにも見られる共通の特徴である。このように細胞核と中心体を細胞の状態に応じてシャトルするタンパンク質のユニークな機能を明らかにすることができた。
滑脳症-小脳症の原因遺伝子・カタニンP80とWDR62は細胞質ダイニン、NuMAを介して微小管ネットワークの再編を行っていることは共通しているが細胞質ダイニン、NuMAとの機能的な関連は異なっていることが分かってきた。具体的にはカタニンP80はNuMA、細胞質ダイニンとともにアスター形成が促進されるが、WDR62はNuMAによって逆にアスター形成が抑制される。細胞質ダイニンの運動抑制効果もカタニンP80は強固に抑制し、カタニンP80の無い測定液に置き換えても細胞質ダイニンの運動能は復活しないのに対してWDR62はWDR62の無い測定液に置き換えた場合、細胞質ダイニンの運動能は復活する。次の研究ではカタニンP80とWDR62の微小管ネットワーク再編における役割分担を明らかにするために、紡錘体形成時に抗体による詳細な時空間的な局在の解析、さらにライブセルイメージングを用いた解析によって役割分担を明らかにする。さらにsiRNAのノックダウン実験を行い、両者の紡錘体形成における役割の違いを解明する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
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