研究領域 | 植物細胞壁の情報処理システム |
研究課題/領域番号 |
24114002
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
出村 拓 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (40272009)
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研究分担者 |
倉田 哲也 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (50360540)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 植物発生・分化 / 細胞壁 / トランスクリプトーム / プロテオーム / 進化 |
研究実績の概要 |
1.二次細胞壁形成のオミクス解析:VND7のリン酸化が転写活性化の亢進に寄与することを強く支持する結果を得た。また、オミクス解析として、VND7の誘導型活性化によって高頻度で二次細胞壁形成を誘導できる形質転換タバコBY-2培養細胞を用いて、プロテオーム解析とメタボローム解析を行った。プロテオーム解析では、二次細胞壁形成誘導後のタンパク質の変化をiTRAQによって定量的に解析した。一方、メタボローム解析については、重複も含めて700種程度の代謝産物が検出可能なワイドターゲット解析を行った。その結果、定量的データが得られた合計517の代謝産物のうち21の代謝産物の蓄積量が二次細胞壁形成誘導処理によって変動することを明らかにした。また、バイオインフォマティクスによるVND7下流の転写ネットワークの推定が可能であるかどうかの検証を行い、Gaussian Graphical Models (GGM)とDynamic Bayesian Networks (DBN)が有効であることを示した。 2.一次細胞壁形成のオミクス解析:これまでにプロトプラストからの細胞壁再生過程のトランスクリプトーム解析の結果から、細胞壁分解酵素群の発現が強く抑制されることを見出した。一方、KOR2遺伝子の発現が誘導されること、KOR2変異体では細胞壁再生が抑制される傾向があることを見出した。 3.細胞壁形成転写ネットワークの進化:コケ植物のヒメツリガネゴケとオオミズゴケを対象に研究を進めた。今年度は、ヒメツリガネゴケにおいて、VND7と同じ遺伝子ファミリー(VNSファミリー)に属するPpVNS7によって発現が制御されているポリガラクツロナーゼ遺伝子群が、通水細胞であるハイドロイドにおける細胞壁の分解に関わる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次細胞壁形成のオミクス解析については、プロテオーム解析が進展し、メタボローム解析でも新しい発見があった。一次細胞壁形成に関しては、新たにKOR2の関与を示すことができた。細胞壁形成転写ネットワークの進化については、ポリガラクツロナーゼの機能を新たに示すことができた。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1.二次細胞壁形成のオミクス解析:道管分化のマスター転写因子であるVND7の下流で展開する二次細胞壁形成について、転写ネットワークの調和システムをオミクス解析により明らかにする。今年度は、sub-cellularレベルの解析としてゴルジ体タンパク質のプロテオーム解析を行う。また、二次細胞壁形成過程におけるメタボローム解析から明らかになったアミノ酸代謝関連の変化をもとに、それら代謝産物の二次細胞壁形成における役割を解析する。さらに、細胞壁成分の解析技術として確立した熱分解GC-MS、NMR、TG/DTA解析、糖鎖分析を用いて、培養細胞を用いた二次細胞壁形成過程での細胞壁成分の変化を追跡する。 2.一次細胞壁形成のオミクス解析:一次細胞壁形成のメカニズムを明らかにするために、これまでに確立したプロトプラストからの細胞壁再生の実験系でのトランスクリプトーム解析の結果をもとにした逆遺伝学解析を継続する。また、一次細胞壁再生時のオミクス解析を行う。さらに、一次細胞壁再生時に細胞壁の厚さを制御するメカニズムに関する研究に取り組む。 3.細胞壁形成転写ネットワークの進化:昨年度は、これまでに進めてきたオオミズゴケや裸子植物のテーダマツを対象にした研究に加えて、ゼニゴケを解析対象とし、VNS遺伝子群がゼニゴケの細胞壁形成に関わる可能性を見出した。今年度は、ゼニゴケVNS遺伝子の機能解析を継続する。さらに、カナダトウヒなどの新たな材料を用いて針葉樹仮道管の二次細胞壁形成におけるVNS遺伝子群の機能解析に着手する。
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