計画研究
植物細胞壁は典型的な動的複雑系で,その構築・再編や機能制御には膨大な数の酵素群と制御因子が関わる。本研究では,植物細胞壁の分子動態を,発生過程や刺激応答などの時間軸と、組織パターンや細胞極性などの空間軸に沿って解剖することにより,植物細胞壁が多元的な情報処理機能を発揮するメカニズムの解明を目指して解析を進め以下の成果を得た。1.陸上植物のXTHファミリー全般を視野に入れた新規機能の解明を目指して組換え蛋白質の生化学的な解析を進めた。その結果シロイヌナズナのAtXTH3およびヒメツリガネゴケのPpXTH31が,βグルカンを基質とすることを示す予備的結果を得た。2.茎寄生植物の行動と,寄生に伴う道管分化誘導,異種植物間組織融合などにおける細胞壁動態の分子解剖を目指し,組織学的解析と,レーザーマイクロダイセクション法を用いたオミクス解析を,昨年に引き続き進めている。3.シロイヌナズナの2倍体で胚軸の細胞伸長が促進されることを見出した。更に2倍体では,クチクラの機能が変化し,ワックス輸送関連の一連の遺伝子群の発現が低下していることを明らかにした。4.シロイヌナズナの葉肉細胞プロトプラストから細胞壁を高い頻度で再生する系を確立し,セルロース微繊維の動態およびキシログルカンとの相互作用について最近提唱されている細胞壁の生力学ホットスポットモデルを指示する新しい知見が得られた。5.イネ細胞壁内のβ1,3/1,4グルカン含量を低下させた形質転換体を用いて,組織内のケイ素分布がβ1,3/1,4グルカンにより影響を受けることを実証した。6.RNAseqに基づく共発現構築法の改良を進め,低発現量遺伝子について安定して共発現関係が推定できるようになった。また,共発現データの評価を多角化し,既知機能が十分に利用できない非モデル生物種についても,正確な質の評価を可能にした。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度得られた以下の成果は,植物細胞壁の分子動態を,発生過程や刺激応答などの時間軸と、組織パターンや細胞極性などの空間軸に沿って解剖するうえで,非常に重要な知見であると考えられる点で,当初の計画以上に伸展していると判断できる。(1) シロイヌナズナのAtXTH3およびヒメツリガネゴケのPpXTH31が,βグルカンを基質とすることを示し,XTHの機能の概念を変えた。(2) シロイヌナズナの2倍体で胚軸の細胞伸長が促進されることを見出し,更に2倍体では,クチクラの機能が変化し,ワックス輸送関連の一連の遺伝子群の発現が低下していることを明らかにしたことにより,細胞伸長と倍数性との間のブラックボックスに細胞壁の具体的な構造と機能が関与することを初めて実証した。(3) シロイヌナズナの葉肉細胞プロトプラストから細胞壁を高い頻度で再生する系を確立し,セルロース微繊維の動態およびキシログルカンとの相互作用について最近提唱されている細胞壁の生力学ホットスポットモデル仮説を指示する新しい知見が初めて得られた。(4) イネ細胞壁内のβ1,3/1,4グルカンとケイ素が,機能的に相互作用している可能性を初めて実験的に示した。
年度内の計画については予想以上の成果が得られたので,次年度以降は,当初の計画研究を前倒しにして推進すると共に,茎寄生などの研究テーマを並行して推進し,領域の研究計画全体の推進を図りたい。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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