計画研究
本研究の目的は植物細胞壁の分子動態を発生過程や刺激応答などの時間軸と、組織パターンや細胞極性などの空間軸に沿って解剖することにより,植物細胞壁が多元的な情報処理機能を発揮するメカニズムを解明することである。H27年度の研究成果は以下の通りである。(1)XTHファミリー全般を視野に入れた新規機能の解明を目指して組換え蛋白質の生化学的な解析を引き続き進めた。その結果AtXTH3がキシログルカン以外の新規な細胞壁多糖類に対して作用し,新規な転移反応を引き起こすことを見いだした。また,シロイヌナズナの葉肉細胞プロトプラストから細胞壁を80%以上の高い効率で再生させる実験系を確立し,その方法を用いて,細胞壁再生過程におけるセルロース微繊維の動態を定量的に可視化し解析する手法を開発し,様々な条件や変異体内でのセルロース微繊維の動態の解析を進め,細胞壁の高次構造の構築とその再編過程におけるXTHの新規な機能を提唱するとともに,その機能を元にした陸上植物細胞壁の新規な動的モデルを提唱した。(2)典型的な茎寄生植物であるネナシカズラの実験室内での栽培法を世界に先駆けて確立し,組織学的解析とレーザーマイクロダイセクション法を用いたトランスクリプトーム解析を用いて,寄生時のネナシカズラの道管分化誘導,ネナシカズラと宿主間の組織融合過程における細胞壁動態の分子解剖を進めた。更に,寄生過程で特異な発現変動を示す遺伝子群のクラスター解析に成功した。更に,寄生過程において細胞伸長が重要な役割を担うこと,その過程に核内倍加が関わることなどを明らかにした。(3)RNAseqに基づく共発現構築法の改良を進め,低発現量の細胞壁関連遺伝子群についても安定して共発現関係を推定できるようにした。また,共発現データの評価を多角化し非モデル生物種の解析も可能にした。
1: 当初の計画以上に進展している
概要に記した(1)~(3)三つの成果はいずれも当初計画で期待した以上の成果である。それぞれの理由は以下の通りである。(1)本研究により今回解明したAtXTH3の新規機能は,セルロース微繊維間の架橋構造やその再編過程についてのこれまでの常識を覆すもので,植物細胞壁の分野において大きな発見であり,細胞壁の動態やそれを基盤にした諸機能の研究領域への波及効果は計り知れない。その点で,この研究は当初の研究計画を遙かに超えて進展していると判断できる。また,葉肉細胞プロトプラストから細胞壁を80%以上の高い効率で再生する系を確立したことにより,セルロース微繊維とキシログルカンの相互作用の定量的な高解像力イメージングが初めて可能となり,細胞壁の高次構造の構築再編に関わる諸因子の探索に新しいアプローチを切り開いた点で,重要な成果である。(2)ネナシカズラの実験室内での栽培法を世界に先駆けて確立した意義は大きく,更に,組織学的解析とレーザーマイクロダイセクション法を用いたトランスクリプトーム解析により寄生過程に関わる細胞壁動態の分子解剖にも予想以上の早さで成功した。(3)共発現データベースも当初の予想以上に強力な推定が可能であることが,多数の利用者により実証されつつある。
当初の研究計画の多くはすでに達成されたので,今後はこれらの成果の更なる展開を目指し,以下の三つの研究を重点的に進める。(1)AtXTH3の新規酵素機能の生物学的な役割の解明とXTHファミリー遺伝子群の未解明の新機能の探索および,これらのXTHによる細胞壁再編過程の分子解剖。(2)ネナシカズラの寄生過程に関わる諸過程の分子解剖。(3)ネナシカズラの遺伝子発現データベースの構築・発信
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (3件) 備考 (2件)
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