計画研究
平成25年度は,平成24年度に引き続き植物細胞壁の生合成および生分解に関わる酵素の取得および可視化に力点を置いた。酢酸菌Gluconacetobacter xylinus由来のセルロース合成酵素の異宿主発現に成功し、発現した組換えGxCeSABの活性を測定する為、細胞破砕液を用いたin vitroセルロース合成試験を実施した。また合成試験により得られた産物を、蛍光標識セルロース結合タンパク質(RFP-CBM1)による染色、電子顕微鏡観察およびセルラーゼによる分解によって確認した。以上の結果は、Pichia酵母を用いたセルロース合成酵素の生産に成功し、さらにin vitroでのセルロース合成に成功したことを示しており、投稿に向けて準備中である。さらに,植物細胞壁の生分解に関わる酵素の動的可視化を行うために、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)と全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)観察が同時に可能となる実験機器を作製し、それを用いてin vitroでの植物細胞壁分解酵素の観察に成功し、科学機器総説(Rev. Sci. Insr.)に公表された。また、連続的(プロセッシブ)な加水分解速度が異なると考えられる3つのセロビオヒドロラーゼ(TrCel7A、PcCel7C、PcCel7D)の加水分解速度と解離定数の関係を明らかにするために、高速原子間力顕微鏡によって三つの酵素の挙動を明らかにした。その結果加水分解速度と表面からの解離にはトレードオフの関係が成り立つことが分かった。本結果は米国化学会誌(J. Amer. Chem. Soc.)に受理された。
1: 当初の計画以上に進展している
セルロース合成酵素の多くは,膜タンパク質であることが知られており,メタノール資化性酵母Pichia pastorisなどを用いた異宿主発現系を構築すること自体がチャレンジングな実験であった。本実験は本研究課題において重要な実験であるため、セルロース合成酵素の発現自体を計画の後半までかけるスケジュールを予定をしていたが、予想以上の進展が見られ、25年度の途中で成功することができた。また、高速原子間力顕微鏡によるセルラーゼの観察では、それぞれの酵素の性質を明らかにできただけでなく、プロセッシビティと移動速度の間にトレードオフの関係が成り立つことも分かり、ハイインパクトな雑誌に受理されたことは特筆すべきことである。
本研究課題において、我々は2種類のin vitroセルロース合成系の構築に成功している。すなわち、セロデキストリン加リン酸分解酵素(CDP)の逆反応を利用した高結晶性セルロースの合成系、および異宿主発現されたセルロース合成酵素複合体(GxCeSAB)によるセルロース合成である。その中でCDPを用いたセルロース合成過程に関しては高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いてその動的可視化に成功しているが、GxCeSABに関しては次年度以降の研究となる。植物は本来GxCeSABと同じ糖転移酵素ファミリーに属するセルロース合成酵素を利用していることから、本実験の成功によって植物細胞壁合成プロセスの可視化に近づくが、一方で本酵素が膜タンパク質であること、活性化因子(環状diGMP)が必要なこと、さらにHS-AFM観察のための固定化条件検討などが必要になることから、更なる実験が必要と考えている。Pichia酵母を用いたセルロース合成酵素の異宿主発現は世界をみても例が無いが、我々が安定な生産系の構築に成功している現状を考えると、実験の進度としてはプロジェクト始動時の予想を遙かに上回っていることから、これまでの方法を引き続き行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 備考 (4件)
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