計画研究
夏目チームの目的は、プロテオミクス技術を用い、ウイルス感染をタンパク質レベルで包括的に理解することである。本年度は、新生タンパク質定量解技術を用い、(1)東京大学・川口チームと共同で、HSV-1ウイルス感染後、経時的に新生タンパク質の定量を行った。その結果、HSV-1ウイルス感染により発現が増加する既知宿主タンパク質に加え、発現が増加する複数の新規宿主タンパク質の同定に成功した。また、ウイルスゲノム由来と考えられる複数の新規タンパク質の同定にも成功した。さらに、(2)東京大学・伊庭チームと共同でmiR-199(ウイルス複製の制御に関わるmiRNA)の強制発現により発現が低下するタンパク質の探索を行い、複数のタンパク質の同定に成功した。(3)筑波大学・永田チームと共同で同定したインフルエンザウイルスNS1タンパク質結合タンパク質PCID2及びLENG8について、複数のリコンビナント欠損変異タンパク質を用いNS1タンパク質との結合様式の詳細を明らかにした。伊庭チームの目的は、広範なウイルスに対する宿主コンピデンシー抑制活性をもつmiR-199-3pに注目して、その抑制活性の分子機構を探る点にある。本年度は、miR-199a-5p/-3pの強制発現による、HSV-1ウイルス粒子形成阻害の分子メカニズムの解明を行った。その結果、miR-199a-5p/-3pの強制発現は、HSV-1遺伝子の発現の速度や発現量には影響せずに、HSV-1のsecondary envelopment を著しく抑制すること、さらに、secondary envelopment の抑制はmiR-199a-5pと-3p がARHGAP21(ゴルジ装置に局在するCdc42 特異的な GAP)の発現抑制を介しゴルジ体の成熟を阻害することにより引き起こされていることを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の夏目チームの目標は、夏目チームにおいて開発した「新生タンパク質の定量解析技術」のウイルス研究における有用性を示すことであり、新生タンパク質の定量解析により、新規のHSV-1ウイルスタンパク質候補およびHSV-1ウイルスの感染により発現が変化する新規タンパク質の同定にも成功、また、miR-199の標的となりうる複数の因子の同定にも成功していることから、当初の目標を十分に達成できていると考えられる。(理由)平成27年度の伊庭チームの目標は、miR-199a-3pがもつウイルス複製抑制活性の分子メカニズムを明らかとすることであり、HSV-1を使用してmiR-199a-3pがもつウイルス複製抑制活性の作用点が、secondary envelopment にあること、さらにここに関与するmiR-199aの重要な標的が、ARHGAP21であることを突き止めたことから、当初の目標を十分に達成できていると考えられる。
夏目チームにおいては引き続き、新生タンパク質の定量解析を用い、HSV-1等のウイルス感染、個別のウイルスタンパク質強制発現など、様々な状況でのウイルスタンパク質及び、宿主タンパク質の発現量変動についての網羅的な解析を行う。また、共同研究を行っているチームと共同で、これまでに発現変動が観察されたタンパク質について、意義の解析を行う。特に、新規のHSV-1ウイルスタンパク質候補については重点的に解析を行い、ウイルス感染における新規タンパク質の重要性の確認及び、新規タンパク質の結合タンパク質の同定実験により、その分子機能の解明を目指す。インフルエンザウイルスNS1結合タンパク質であるPCID2, LENG8については、前年度までに作成した欠損変異体を用い、ウイルス増殖に与える影響を確認する実験を行う。さらに、これまでに得られた詳細な結合様式情報と統合することで、PCID2, LENG8タンパク質がインフルエンザウイルス増殖を制御する分子メカニズの解明を目指す。以上のように、「感染コンピテンシ」班員との共同研究を通じプオテオミクス技術支援及び解析を行うことにより、「感染コンピテンシ」班全体に貢献する。伊庭チームにおいては、前年度までに示してきた、miR-199a/Brm/EGR axisが、形成する制御ネットワークと、本年度見い出した新たなmiR-199aの標的を統合して、miR-199aの幅広いウイルスに対する制御機構の全体像の把握に努めたい。また研究分担者がもつ特定のmiRNAの阻害剤、TuD/S-TuDと、研究代表者がもつ網羅的なproteome解析を結びつけ、より高い精度でmiRNAの標的をタンパク質レベルで定量していくことについてもさらに推進したい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 3件)
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