研究領域 | ウイルス感染現象における宿主細胞コンピテンシーの分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
24115008
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 顕 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (90211937)
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研究分担者 |
小柳 義夫 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (80215417)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | APOBECK3G / HIV / Vif / 共進化 / エラーカタストロフ / 抗原連続変異 |
研究概要 |
・本研究の目的は、ウイルスの複製と感染性ウイルス粒子産生機構の理論化と実証研究、そして感染個体におけるウイルス感染とそれによって動員される細胞内・個体内防御反応の数理モデル化と培養細胞および動物モデルを用いたウイルス感染実験による実証化を行い、ウイルス増殖と宿主個体内・細胞内防御系との攻防の動的平衡や遺伝的変異の蓄積の過程の解析を行うことである。 ・研究代表者の佐々木は、宿主とウイルスの攻防のもとでの宿主の利他行動の進化について、特に空間構造の重要性を研究した。ファージの感染を受けたバクテリアが自殺をすることで、集団の他のバクテリアを感染から守る「利他的な自殺」に着目し、その進化条件を理論及び実験の双方向から解明する研究を行った。λファージの感染に伴い自殺する型と自殺しない型のバクテリアを用い、液振環境(空間構造なし)と寒天培地上(空間構造あり)で実験を行い、寒天培地上でのみ自殺型が頻度を増やすこと、その増加の程度、培養中に出現するバクテリア、ファージ双方の抵抗性突然変異体の効果も合わせて、モデルと実験双方で利他的自殺の進化条件を明らかにした。成果はScientific Reports誌に掲載発表した。 ・研究分担者の小柳は、HIV-1に対するヒトの阻害タンパク質BST2が、HIV粒子の放出効率を低下させる効果を持ち、一方HIV-1のアクセサリータンパク質VpuがそのBST2を下方制御すること、BST2が阻害するのはウイルス粒子生産能であって、隣接細胞へのcell-to-cell感染には影響を与えないことなどを明らかにした。これらの結果はJournla of Virology誌に掲載発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・研究代表者佐々木の研究室では、進化シミュレーションとデータ解析を担当する研究補助者の採用が遅れたが、おもに数理モデルの構築や、数学的解析に集中して、次年度以降の共同研究の課題となりえる理論的トピックについてまとめるとともに、先行的な解析を行うことができた。 ・研究分担者の小柳の研究室では、ヒト化マウスを用いてSIVからHIVへの移行のプロセスを実験的に探る研究が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
以下の課題を並行して進める。 ・[宿主体内のウイルスの感染細胞特異性] はしかウイルスのSLAMやポリオウイルスのPVレセプターなど、ウイルス が標的とする宿主受容体とウイルスの変異体との相互作用、また、インターフェロン、APOBECK3等の宿主の細胞 因子に対するウイルスの抵抗性の進化を数理モデル化し、新しい宿主へのウイルスの適応、新しい組織への適応 の進化動態の数理モデルを開発し、継代培養実験系との比較を行う。 ・[宿主細胞内の機構とウイルスの相互作用] ウイルスが宿主細胞に侵入した後のウイルスの増殖過程と、宿主の 複製・合成機構、制御キナーゼやミトコンドリアとの相互作用、さらに宿主因子の細胞内局在性を取り入れた「 細胞内ウイルス増殖の数理モデル」を開発し、報告分子シグナルとウイルスの遺伝子産物発現量の時系列データ などの実験結果を用いて解析する。 ・[免疫細胞との相互作用と組織レベル感染動態] ウイルス因子とウイルス抑制性タンパク質や免疫細胞の相互作 用、それらの体内での局在や移動を取り入れた感染動態の数理モデルを開発する。また、HIVやSIVのようにメモ リー細胞を含む複数の種類の標的細胞をもち、感染後に患者内でトロピズムを進化させるウイルスの宿主体内の 進化動態モデルを作成し、宿主体内・細胞内の防御進化の一般的な理論を構築する。
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