計画研究
ヒトの対レトロウイルス防御タンパク質であるAPOBEC3Gと、それを阻害するHIVのタンパク質Vifの共進化の数理モデル化を行い、ウイルス突然変異率の最適化を巡る宿主とウイルスの攻防の進化動態モデルを構築した。APOBEC3によるウイルス突然変異率上昇とVifによる阻害による突然変異率の引き戻しの力のバランスにより、共進化過程がウイルス擬種分布の崩壊(エラー・カタストロフ)に至るか、突然変異率の過度の抑制による抗原エスケープ能を失うに至るか、ウイルスが両者をうまくバランスさせて最適な突然変異を維持できるか等の様々な共進化動態の帰結が可能である中で、Vif/A3G発現量の共進化サイクルをもたらしうることを理論的に示した。これらの遺伝子発現量の共進化に着目したモデルでは、共進化動態の挙動の解析に集中するため、突然変異のノンランダムネス については捨象してきた。しかしながら、A3Gによるhyper-mutationはランダムではなく、二連字GGをAGに変える変異が多いなどの部分配列特異性を持つ。また、この配列特異的な変異で特にトリプトファンコドンUGGが終始コドンUAGに変わるなど、ウイルスの複製に介入する。A3Gをもつ宿主集団に感染するウイルスは、この特定の部分配列の改変による強い自然淘汰を生き残ってきたゲノム配列を持っているはずである。ここではウイルスのゲノム配列に、特定の標的サイトへのhypermutationと自然淘汰が加わった場合の配列の進化を、擬種動態としてモデル化し、この淘汰のもとで維持されるゲノム中の部分配列(ワード)の分布に関する解析的な予測理論を構築した。
2: おおむね順調に進展している
ウイルス突然変異率の最適化を巡る宿主とウイルスの攻防の進化動態モデルについて解析がほぼ完成した。A3Gによるhyper-mutationがもたらすワード分布の予測理論の構築についても順調に進んでいる。研究計画では、ヒト集団のHIVサブタイプのゲノム配列のワード分布の解析、その分布から各サブタイプが過去にA3Gによる自然淘汰にさらされた程度の推定等の解析を行う予定であったが、A3Gによるhyper-mutationがもたらすワード分布の予測理論の構築がようやく軌道に乗った段階であり、配列データベースを用いた解析は2016年度に持ち越す。
現在ヒト集団にみいだされるHIVの各サブタイプのゲノム配列のワード分情報から、各サブタイプが過去にA3Gによる自然淘汰のどの程度さらされてきたかの推定、サブタイプの抗APOBEC活性の実験データ(Iwabu et al. 2010)とも比較についても解析を行う。そのために、 A3Gによるhyper-mutationがもたらすワード分布の予測理論と配列データ解析との接合部分を理論的に整備し、配列データベースを用いた解析を本格化させる 。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 2件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件、 招待講演 7件) 図書 (2件)
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