研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
24116002
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉川 武男 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, チームリーダー (30249958)
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研究分担者 |
豊島 学 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 基礎科学特別研究員 (90582750)
大西 哲生 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (80373281)
前川 素子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (50435731)
豊田 倫子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 専門職研究員 (20392045)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 22q11.2欠乏症候群 / カルボニルストレス / iPS細胞 / DGCR8 / miRNA / neurosphere / 分化 |
研究実績の概要 |
統合失調症の発症脆弱性基盤として「神経発達障害仮説」が有力であるが、これまではヒト由来サンプルを用いて当該仮説に直接アプローチできる方法論がなかった。よって、どのような「神経発達障害」が素地となって、思春期以降の顕在発症に繋がるのかは、全くブラックボックスであった。そこで我々は罹患者からiPS細胞を作製して、神経発達最初期の異常やその後の分化過程・シナプス形成の異常を実際のヒト神経細胞で捉えることによって、「神経発達障害仮説」の具体的事象の解明、分子・細胞病理の新しいパラダイムの発見に挑むことにした。疾患対象者として、ゲノムに大きな変異(コピー数多型)のあるサンプルや遺伝子にナンセンス変異やフレームシフトを持つサンプルを積極的に収集して、原因異質性の高い統合失調症の中でも「切り口」のある症例に重点を置き、病態と関連する「マイクロエンドフェノタイプ」レベルの表現型を観察できる可能性を高める戦略を選んだ。今年度は、対象として、統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者様2名、GLO1遺伝子にフレームシフト変異を持った高カルボニルストレス下にある統合失調症患者様1名、健常対照者2名からiPS細胞を樹立した。そして次のような知見を得た:(1)22q11.2欠失症候群に関しては、cNDAマイクロアレイ解析をしたところ、DGCR8というmiRNAのプロセッシングに関与する遺伝子の発現が患者サンプルで低下していたので、miRNAの網羅的解析を行ったところ、神経幹細胞塊(NS: neurosphere)から神経系の細胞分化に必要なmiRNAの発現に異常が認められた。(2)高カルボニルストレス下にある統合失調症サンプルに関しては、iPS細胞からNSへの分化効率が悪く、それはビタミンB6の投与で改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者様2名からのiPS細胞樹立は困難であったが、試行錯誤の後、工夫を加えて樹立に成功することができた。このことによって、その後のmRNAの解析、miRNAの解析に進むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症は、非常に異質性の高い疾患であるため、多くのサンプルを収集し、解析することが重要となってくる。このために、以下のアプローチを取る。(1)統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者様をさらにリクルートするために、「22ハートクラブ(22q11.2欠失症候群患者会)」と緊密な連携を取っていくことにした。(2)これまでは、皮膚を切開して線維芽細胞を単離し、iPS細胞を樹立していたが、この方法では被験者への侵襲が大きく、検体数を多くすることが困難である。最近、末梢のTリンパ球からiPS細胞を樹立することが出来るようになったので(「TiPS」と呼ばれる)、今後はTiPSの樹立に切り替えていく。 解析の方法論としては、以下のものを取り入れていく。(1)オミックス解析のうち、プロテオミクス解析については、最新技術である「リボソームプロファイリング」法に挑戦する。(2)GLO1遺伝子変異の修復など、iPS段階での遺伝子改変として、TALENなどの最新ゲノム編集技術を取り入れていく。
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