計画研究
統合失調症の発症脆弱性基盤として「神経発達障害仮説」が有力であるが、これまではヒト由来サンプルを用いて当該仮説に直接アプローチできる方法論がなかった。そこで我々は罹患者からiPS細胞を作製して、神経発達最初期の異常やその後の分化過程・シナプス形成の異常を実際のヒト神経細胞で捉えることによって、統合失調症の病因・病態と関連する「マイクロエンドフェノタイプ」レベルの表現型を見出し、「神経発達障害仮説」の具体的事象の解明を目的としている。昨年度までの研究で、統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者や、GLO1遺伝子にフレームシフト変異を持った高カルボニルストレス下にある統合失調症患者からiPS細胞を樹立している。今年度は、これらのiPS細胞から神経幹細胞塊(NS: neurosphere)や神経細胞を作製し、神経分化に焦点を当て解析を行った。その結果、統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者由来のNSは、健常者由来のNSより直径が小さく、SOX1 (神経幹細胞のマーカー)の発現量も低下していた。NSから神経細胞への分化誘導を行った結果、患者由来のNSでは神経細胞への分化効率が低下した。健常者由来のNSでは、神経細胞以外の細胞は出現しなかったが、患者由来のNSでは、神経細胞の他にアストロサイトへの分化が見られた。高カルボニルストレス下にある統合失調症患者由来のiPS細胞やNSでは、特定のタンパク質のAGE (advanced glycation end products:終末糖化合物)化が増加しており、このタンパク質を同定したところ、神経系の発達に重要な働きを持つタンパク質だった。これらの結果から、統合失調症患者由来の神経系細胞において、神経発達や神経分化の異常が起きていることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
統合失調症は、非常に異質性の高い疾患であるため、多くのサンプルを収集し、解析することが重要となってくる。本研究ではサンプル数を増やすため、末梢のTリンパ球からのiPS細胞(TiPS細胞)の樹立を計画しており、本年度でTiPS細胞の樹立体制が整った。更にTiPS細胞の樹立元となる、Tリンパ球については、統合失調症患者、健常者からの収集も進んでいる。解析についても、神経分化に焦点を当てた解析に進むことができた。また、カルボニルストレスのターゲットとなるタンパク質の同定も行うことができた。
本研究の解析サンプル数を増やすため、ゲノムに大きな変異(コピー数多型)のあるサンプル(22q11.2欠失症候群等)やカルボニルストレス関連遺伝子にナンセンス変異やフレームシフトを持つサンプルを積極的に収集する。TALEN、CRISPR/Cas9などの最新ゲノム編集技術を取り入れ、22q11.2欠失症候群で欠損する遺伝子やカルボニルストレス関連遺伝子を破壊・修復したiPS細胞を作製し、神経発達や神経分化に影響を与える遺伝子を同定する。更にこれまで得たデータを詳細に検討し、整理して論理的な解釈を導き、論文化することに注力する。また、得られたデータよりパテント申請できるものを検討する。
すべて 2014 2013
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