研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
24116003
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 朗子 (高木 朗子) 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60415271)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 樹状突起スパイン / 2光子励起顕微鏡 / Synaptic optogenetics / DISC1 / シナプス刈り込み |
研究概要 |
様々な精神疾患に、大脳皮質のグルタミン酸作動性シナプスの関与が強く示唆されるものの、生体脳でどのような病態がシナプスレベルで進行していくのか(マイクロエンドフェノタイプ)は未解明である。グルタミン酸作動性シナプスの約7割は、樹状突起上にマッシュルーム様構造(スパイン)を形成し、その形態と機能は著しい相関があることより、in vivoにおけるスパイン形態の縦断的イメージングとその操作技術の確立を行った。 (戦略1:疾患マウスのIn vivoスパインイメージング)統合失調症モデルマウスとして前頭野特異的DISC1ノックダウンマウスのin vivoスパインイメージングを行った。同マウスでは、マウスの思春期に相当する時期にシナプスが過剰に除去され、成体時にはシナプス密度が大きく減少することを見出した。PAK阻害剤であるFRAX486は、この過剰なシナプスの除去を予防し、統合失調症に関連する症状の一つである感覚運動情報制御機能の障害も改善効果を有することが明らかになった。 (戦略2:新規光プローブによるシナプス特異的な光操作操作法の開発)上記の戦略では、シナプスと行動との相関関係という示唆を与えることが出来るものの、直接的なエビデンスにはなりえない。そこで、スパイン形態を人為的に操作する新しい技術:Synaptic optogeneticsをin vivoで確立することを試み、長期増強が生じたシナプスの後肥厚部に特異的に集積し、青色光で同シナプスを破壊することが出来る記憶プローブの開発に成功した。この新規光プローブを大脳皮質へ遺伝子導入した後、特定のタスクをマウスに付加すると、同タスクに必要な脳領域シナプスにAS-PaRac1が再局在することを確認し、実際に青色光で既得学習を阻害することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(戦略1)に関しては、「シナプスを保護する」という従来の統合失調症の治療戦略にない新たな観点おようびその有用性に関する示唆を与えることができ、論文として報告することができた(Hayashi-Takagi A. et al, PNAS, In press)。このような戦略は、今後の統合失調症の治療戦略に応用されうると考えており、プレスリリースを行った。 (戦略2)新規光プローブがIn vivoにおいて信頼性をもって使用可能であるエビデンスを得たため、同プローブの研究成果を論文として投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
(戦略2)の論文受理に対する追加実験を行いながら、プローブ精度の改善を試みる。具体的には、より低用量で短時間の青色光でシナプスを消去することが目標である。プローブの改善後は、同プローブを用いた精神疾患病態の解明に着手する。モデルとしては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)モデルの病態可視化に挑戦する。PTSDは強烈なストレスによって心的外傷を負ったあとに発症し、その脳機能に永続的・不可逆的な生理学的変化を起こす疾患であり、その病態解明や治療法は未だ確立していない。心的外傷を受けたすべてのヒトがPTSDを発症するわけではなく、むしろ一部の少数者であることが明らかになっており(Kessler & Sonnega 1995)、このような脆弱群(Susceptible)と疾患抵抗群(Resistant)は動物モデルでも確立している(Cohen et al. 2006)。本申請では両群間の記憶スパインの形成率・分布の関係を比較解析し、病態への寄与の大きい神経回路を特定する。特定後は、恐怖条件付け後に光照射を行い、恐怖記憶の消去を試みる。
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