研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
24116005
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 忠史 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (30214381)
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研究分担者 |
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳神経疾患 |
研究実績の概要 |
双極性障害に特異的な脳病態を明らかにするには、細胞レベル、神経回路レベルで、この疾患に対応した変化を同定する必要がある。本研究の目的は、双極性障害において、こうした神経細胞レベルの病態、すなわちマイクロエンドフェノタイプを、動物モデル研究、iPS細胞由来神経細胞を用いた研究、および患者死後脳組織を用いた研究により、確認することである。我々は、気分障害を伴う慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)の原因遺伝子(Polg)の変異体を脳だけに発現させた遺伝子改変マウスを作成し、双極性障害様の行動変化を呈することを報告した。このモデルマウスを用いて、異常ミトコンドリアDNAが蓄積している脳部位を検索し、mtDNA欠失が蓄積している脳部位を同定した。さらに、loxPにより囲まれたstopシグナルの後にTetオペレーターをつないだトランスジーンと、Tetにより破傷風毒素を発現するトランスジーンの両方を持つトランスジェニックマウスにおいて、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて同定された神経核にCreを発現させ、脳部位特異的機能的ノックダウンを行った後、行動解析を行うことにより、行動異常の発現における、この神経核の意義を明らかにした。さらに、双極性障害の神経細胞病態を検討するため、患者よりiPS細胞を樹立した。また、、iPS細胞由来神経幹細胞をマウスに移植し、そのフェノタイプを観察するため、神経幹細胞移植法について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに脳全域でミトコンドリア機能障害を有する細胞をマッピングする手法を開発し、双極性障害の候補脳部位を特定するとともに、神経回路遺伝学技術を用いて、この脳部位の病因における意義を明らかにすることができた。また、患者由来iPS細胞を樹立し、iPS細胞由来神経幹細胞をマウスに移植してそのフェノタイプを検討するための基礎的検討を行った。このように、研究が大きく進展しており、これまでの達成度は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに開発したモデルマウスについて、行動解析および睡眠、体温等の生理学的解析、内分泌学的解析など、さまざまな観点からの解析を進め、ヒトにおける気分障害との類似性について、多角的に検証すると共に、候補脳部位を含む神経回路にどのような障害が生じているのかについて、検討を進める。さらに、候補脳部位における遺伝子発現解析から明らかとなった特徴的な分子マーカーを用いて、モデルマウスにおいて障害されている神経回路を特異的に染色するための抗体を作成し、染色方法を検討する。得られた所見に基づいて、ヒト死後脳において、免疫染色により、この神経回路を可視化する方法を確立すると共に、双極性障害患者死後脳において、この神経回路に異常が見られるかどうかを検討し、これがどのような臨床症状と対応しているのかを検討する。また、双極性障害患者よりインフォームドコンセントを得て採血を行い、エピソーマルベクターを用いて山中4因子を導入し、iPS細胞を作成する。iPS細胞が樹立できたら、多能性を確認する。iPS細胞から分化させGFP標識した神経幹細胞をモデルマウスに移植し、神経細胞への分化能および神経細胞レベルの表現型を検討する方法を確立し、この手法を双極性障害の病態解明に応用することを目指す。これらの研究を通して、多角的な観点から、双極性障害のマイクロエンドフェノタイプを明らかにし、双極性障害の疾患概念の再構築を目指す。
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