研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
24116006
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
橋本 謙二 千葉大学, 社会精神保健教育研究センター, 教授 (10189483)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | うつ病 / グルタミン酸神経系 / 脳由来神経栄養因子 / スパイン / 統合失調症 / ケタミン / NMDA受容体 |
研究概要 |
精神疾患のマイクロエンドフェノタイプのうち、最も研究が進んでいるのは、うつ病患者の脳(特に、海馬)における樹状突起萎縮およびスパインの減少であるが、その基盤となる分子機序は不明である。近年、炎症がうつ病などの精神疾患の病態に関わっていることが示唆され、炎症を引き起こすリポポリサッカライド(LPS)が炎症性うつ病の動物モデルとして幅広く利用されている。今回、LPS誘発のうつ病モデルを用いて、前頭皮質、海馬におけるスパイン密度がうつ病モデルで低下しており、逆に側坐核ではスパイン密度が増加していることを見出した。またうつ病の病態や治療メカニズムに関わっている脳由来神経栄養因子(BDNF)の量をウェスタンブロット法で調べると、前頭皮質、海馬におけるBDNF量がうつ病モデルで低下しており、逆に側坐核ではBDNF量が増加していることを見出した。次に、BDNFの受容体であるTrkB受容体のアゴニストおよびアンタゴニストを用いて、炎症性うつ病の治療薬としての可能性を調べた。その結果、アゴニストである7,8-DHFは炎症性うつ病モデルにおいて、抗うつ効果を示し、その効果はアンタゴニストANA-12の投与により拮抗された。興味深いことに、ANA-12単独投与も、炎症性うつ病モデルで抗うつ作用を示し、また側坐核への直接投与でも抗うつ効果を示した。以上の結果より、BDNF-TrkBシグナルはうつ病の新規治療ターゲットとして有用であることが判明した。 さらに、うつ病の動物モデル(新生時期にデキサメサドン投与)におけるNMDA受容体拮抗薬ケタミンの効果を調べた。その結果、ケタミンの1回投与は、即効性でかつ長期に持続する抗うつ効果を示し、その効果は光学異性体で異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症性うつ病におけるBDNF-TrkBシグナル系に関する研究成果は、学会発表を行い、論文投稿を進めている。またうつ病のモデル動物におけるケタミンの光学異性体に関する研究成果は、特許出願後(2013年9月)、論文投稿を済ませ、2014年に掲載された。現在、新しいうつ病モデルをもちいてケタミンの光学異性体の効果を調べており、さらに、新規分子メカニズムの解明を進めている。 このように、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、新しいうつ病のモデル(慢性社会敗北モデル、学習性無力など)を用いて、ケタミンの光学異性体などの効果を調べる。またうつ病、統合失調症などの精神疾患のモデル動物の脳におけるマイクロエンドフェノタイプ(スパイン密度など)の変化におけるグルタミン酸神経系の役割を詳細に調べ、新規治療法の開発に結び付けていく。
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