精神疾患のマイクロエンドフェノタイプのうち、最も研究が進んでいるのは、うつ病脳における樹状突起スパイン密度の変化である。これまでの研究で、NMDA受容体への親和性が弱いR-ケタミンの方が、NMDA受容体への親和性が高いS-ケタミンより抗うつ作用が強いことを報告した。今回、これらのケタミン異性体を週1回8週間投与し、脳におけるパルブアルブミン陽性細胞を免疫組織化学で調べた結果、S-ケタミン投与では、前頭皮質におけるパルブアルブミン陽性細胞が有意に低下し、R-ケタミンでは起きなかった。この知見は、R-ケタミンはS-ケタミンと比較して繰り返し投与でも副作用が少ないことが予想される。2016年5月に、ケタミンの抗うつ作用は、ケタミン自体でなく、最終代謝物ヒドロキシノルケタミン(HNK)が重要であることがNATURE誌に掲載された。しかしながら、社会的敗北ストレスモデルと炎症モデルで調べた結果、最終代謝物HNKの抗うつ効果を確認できなかった。さらに、R-ケタミン自身を脳部位に投与すると抗うつ作用があることから、代謝物の可能性は低いと思われた。以上の結果より、ケタミンの抗うつ作用は代謝物でなく、R-ケタミンの寄与が大きいことを報告した。 統合失調症のPolyICモデルを用いて、4週齢から8週齢までDセリンを含む飲料水を与えると10週齢以降に観察される行動異常(認知機能障害)が抑制されることを見出した。さらに、Dセリン合成酵素の遺伝子欠損マウスの前頭皮質では、糖新生に関わる酵素の変化を見出した。
|