研究領域 | マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 |
研究課題/領域番号 |
24116007
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
富田 博秋 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (90295064)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / ストレス / マイクロアレイ / 遺伝子 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
精神疾患病態への精神神経免疫相関現象の関与の実態を解明し、疾患病態の解明や診断治療法の開発に有用なマイクロエンドフェノタイプを確立するため、初年度は心的外傷後ストレス反応と統合失調症の病態形成に関連する神経免疫相関に焦点をあてて下記の3つの研究を行った。1) 本研究の趣旨を理解し、書面で同意の得られた東日本大震災被災者から心的外傷体験への暴露の状況やその後の経過に関する情報と併せて、唾液を採取した。唾液から抽出した総RNAの遺伝子発現プロファイルの解析を行い、心的外傷後ストレス反応の程度に相関して発現量に顕著な影響を受ける遺伝子群の特定を行った。2) PTSD モデルとしてマウス恐怖記憶解析系を用いて、恐怖記憶形成に及ぼす脳内マイクログリアや免疫系細胞の解析を行った。恐怖記憶の形成および、恐怖記憶の消去が顕著におきる条件を検討し、恐怖記憶形成が起きたマウスの脳組織と血液の各々から、ミクログリアと単球に特異的な磁気ビーズを用いて各細胞の単離を行い、遺伝子発現プロファイル等の検討を行った。3) 統合失調症等の罹患感受性に関与することが示唆されている胎生期の母体の免疫ストレスが病態に関与するメカニズムを解明するため、胎生期に母体マウスへのpolyI:C投与よる免疫ストレス負荷を起こし、成獣後の行動と脳の遺伝子発現とエピゲノムの状態への影響を評価した。胎生期に母体が免疫ストレスに曝されたマウスでは、成獣後、プレパルス抑制の低下を含む認知や行動への影響を認め、これに伴い、特徴的な遺伝子発現プロファイルの変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は心的外傷後ストレス反応により唾液中の細胞に生じる分子遺伝学的変化を特定すること、および、恐怖条件付けによるPTSDのマウスモデルなどの動物実験により、神経免疫相関のメカニズム解明を進めるという当初の目的は順調に進展した。2年度以降、初年度の研究で掴めた進呈外傷後ストレス反応や胎生期に母体が免疫ストレスを受けることにより、免疫細胞や中枢神経系で影響を受ける分子群の変化を更に詳細に解析することで、精神疾患病態に精神神経免疫相関のメカニズムを介して生じるエンドフェノタイプの特定を進める素地が確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、外傷後ストレス反応の形成とそこからの回復のモデルとなる恐怖条件付けと恐怖消去マウスと胎生期に母体が免疫ストレスを受けることによる成長後の脳機能と行動への影響に関与する免疫細胞と中枢神経系での分子遺伝学的影響の変化を更に詳細に解析し、免疫細胞の形態や機能の変化のレベルで影響を受ける分子群の変化を更に詳細に解析することで、精神疾患病態に精神神経免疫相関のメカニズムを介して生じるエンドフェノタイプの特定を進める。従来のマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析に加え、次世代シークエンサーによる網羅的エピゲノム解析を行う他、候補分子の絞り込みを行う中で、細胞内のタンパク質の局在や機能の検討を行う。また、心的外傷後ストレス反応の臨床検体を対象とする研究では、唾液検体だけでなく、血液検体の解析に着手する他、自律神経系や視床下部副腎皮質下垂体系への影響の客観的評価を並行して導入することで、精神神経免疫相関成立のメカニズムの多角的な検討を行う。更に、統合失調症、気分障害、外傷後ストレス障害(PTSD)を対象疾患として、血液、唾液検体中の単球やヘルパーT細胞など多様な免疫細胞を対象に、液性免疫、細胞性免疫に関して病態形成への関与のメカニズムの解析を行うとともに、統合失調症、気分障害については死後脳研究を行い、モデル動物研究や末梢血液・唾液を対象とする研究で得られたミクログリアや神経回路の現象が精神疾患罹患者の脳内で起こっているかを確認する。これらの知見を統合することで、精神疾患病態に関わる脳内細胞と免疫細胞のマイクロエンドフェノタイプを特定し、精神疾患の病態形成と回復過程に関わる精神神経免疫相関機構を解明する。また、本研究の成果に基づく精神疾患の精神神経免疫相関に関わる分子レベルでの網羅的データを広く研究者と共有し、この研究領域の展開、促進を図る。
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