計画研究
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の原因は恐怖記憶制御の破綻であり、PTSD治療法開発には、恐怖記憶制御の核となるマイクロエンドフェノタイプの同定とその制御基盤の解明が必要不可欠である。本研究課題では、申請者の独自のマウス恐怖記憶実験系を用いて、イメージング・分子・光遺伝学的手法により、恐怖記憶制御回路を細胞・シナプスレベルまで網羅的に可視化し、その性状を生化学・生理学的に解析し、その機能を遺伝学的手法により解明することを目的として研究を進めた。本年度は、複数の恐怖記憶課題を用いて、恐怖記憶制御ニューロンの網羅的同定を進めた。初期応答遺伝子発現とタンパク質分解を指標にした免疫組織二重染色法を用いて、想起後の不安定化及び再安定化、さらには、消去を担うニューロン集団を同定した。さらに、これらニューロン内の細胞内情報伝達経路を解析し、脱リン酸化酵素カルシニューリンがタンパク質分解の上流因子であることを生化学的に証明し、薬理学的な解析により、カルシニューリンが記憶不安定化と消去を制御することを行動レベルで明らかにした。以上のように、想起後の恐怖記憶を制御する鍵ニューロンと、このニューロンにおいて恐怖記憶を制御する細胞内分子シグナルを同定した。また、PTSDの原因となる「古い恐怖記憶」の制御機構に対する海馬の役割を解析し、この作動原理に基づいた恐怖記憶の破壊誘導の方法確立に着手した。さらに、連携研究者の協力により、恐怖記憶制御時の海馬ニューロンのユニット記録解析方法の確立を進めた。環境要因による精神疾患発症のマイクロエンドフェノタイプを同定するために、社会的隔離を施したマウスの恐怖記憶の性状を解析し、一方、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトームの網羅的解析により、サーカディアンリズム異常等による環境要因によって異常を示す脳内情報伝達経路を同定した。
2: おおむね順調に進展している
恐怖記憶回路・ニューロンの同定、性状解析が予定通りに進んでいる。技術確立に関しても、進展しているため。
前年度に継続して、恐怖記憶制御を担うニューロンの細胞・スパインレベルの解析を進めるため、恐怖記憶ニューロン及びスパインの可視化をより一層推進する。蛍光免疫組織染色を用いたスパインの可視化を重点的に進めるとともに、CLARITY法を用いた3次元的な可視化も併用して、恐怖記憶制御ニューロンの性状解析を進める。また、これらの解析とCat-FISH、トレーサー及びウイルスを用いた回路解析を進展させる。この解析に基づいて、スパイン内の機能性分子マーカーの超分子構造解析系のセットアップを行う。また、同時に、恐怖条件付け文脈課題における消去時の海馬ニューロンのin vivoユニット記録解析をセットアップする。一方、環境要因による精神疾患病態モデルマウスの開発を推進するため、社会ストレス、断眠等のストレスを与えたマウスにおける恐怖記憶を評価して、PTSDモデルとしての有効性を検討する。また、環境要因及び遺伝要因により生物リズムが破綻したモデルマウスを用いて、精神疾患と関連するマイクロエンドフェノタイプの同定を目指す。
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Brain Research Bulletin.
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Current Molecular Medicine.
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巻: 6 ページ: 37
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