計画研究
1)社会行動低下とドパミン神経活動変化のモデル動物を用いた解析;自由行動下で無線システムをつかった脳神経活動記録ならびにin vivo脳内ダイアリシスを用い、EGFで作製された統合失調症モデルラット・前頭前野からのドパミン活動・放出変化を計測した。結果、定常時にEGFモデルのドパミン神経活動、ドパミン放出、ともに亢進しているものの、新規ラットに遭遇させた(社会ストレス負荷)時のドパミン放出・活動上昇は、対照に比して弱く、それがストレス脆弱性の原因と推定された。2)統合失調症モデル動物の分子病態変化と患者死後脳の分子病態変化の比較分析;当該モデル動物の大脳皮質聴覚野において選択的な、神経活動マーカーZIFとFOS、活性化マイクログリアマーカーであるIBA1の恒常的上昇が観察され、当該モデルでの聴覚機能異常が示唆された。そこで共同研究者の協力を得て統合失調症患者死後脳・聴覚野周辺領域でも同様の測定を実施した。しかし、ZIFとFOS、IBA1いずれも剖検までの死後経過時間と高い相関性をしめし、5時間以上経過したものは当該蛋白がほとんど分解していることが判明した。結果、死後脳研究の難しさを痛感させられた。3)炎症性サイトカイン投与で作製された統合失調症モデルの聴覚機能の評価;EGF投与マウス、ラットを作製し、聴覚野の神経活動をフラビンイメージング、ならびに多点電極によるEcoG記録により評価、分析した。フラビンイメージング法では、音刺激(20kHz)直後に生ずるON反応強度には、モデル群、対照群間に差は見られなかったが、刺激終了後のOFF反応がモデル群で大きく亢進し、またその周辺皮質への活動分散が低下していた。まだ予備実験段階ではあるがEcoG記録でも同様のOFF反応強度のみに上昇がみられた。これらの結果は当該モデルの聴覚機能になんだかの異常が存在することを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
当初から目標としていたサイトカイン誘発性の精神疾患に「マイクロエンドフェノタイプ」が、当該モデル動物の解析を通して着実に解明されつつある。その一つがドパミン発達異常とその機能亢進、二つ目にはOFF反応に代表される聴覚系の機能障害である。
これから最終年度を開始するに当たり、これまでのモデル動物研究で明らかになった上述「マイクロエンドフェノタイプ」の妥当性を、ヒトへのトランスレーションを意識して、より行動学的、生理学的に解明したい。それにより、モデル動物でも「幻聴」や「幻覚」を体験しているという可能性を考察したい。その上でこの5年間の研究成果を総括し、サイトカインと精神疾患の関係性を明らかにしたい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 22606
10.1038/srep22606
Pathological Implications of Oxidative Stress in Patients and Animal Models with Schizophrenia: The Role of Epidermal Growth Factor Receptor Signaling.
巻: Epub ahead of print ページ: Oct 17
PLoS One
巻: 10 ページ: e0142483
10.1371/journal.pone.0142483