研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
24117002
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
宮田 真人 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50209912)
|
研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 細胞運動 / 一分子計測 / 電子顕微鏡 / 構造生物学 / 微生物 / 寄生細菌 / 電子線クライオトモグラフィー |
研究概要 |
病原細菌‘マイコプラズマ’はその片側に滑走装置を形成し,ユニークなメカニズムで“滑走運動”する.本研究ではこれまでの実験結果から提案した運動メカニズムの作業仮説,「滑走装置は4種類の新規巨大タンパク質から形成されており,ユニークな細胞骨格構造により支えられている.滑走装置からは長さ50ナノメートルのやわらかい“あし”が多数つきだしている.ATPの加水分解により装置に動きが生じ,“あし”のタンパク質が宿主細胞表面などのシアル酸オリゴ糖をつかんだり,ひっぱったり,はなしたりして,滑走運動が起こる.」に沿った実験を行い,マイコプラズマの滑走運動を,“狭義のモータータンパク質”と同レベルにまで解明することを目標とする.最速種で淡水魚病原菌のMycoplasma mobile(モービレ)と,ヒトに肺炎の病原菌であるMycoplasma pneumoniae(ニューモニエ)について研究を行う.これらは共通のメカニズムで滑走すると考えられるが,滑走装置を構成するタンパク質の構造には共通点がない.本年度は,(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析,(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析,(3) “あし”動きの予想と可視化,(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析,を行い,それぞれ次項に記載する結果を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に展開した.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析:モービレの“滑走装置”の単離に成功し,表面構造と内部構造のそれぞれに注目した形での構造解析を行った.内部構造については電子線クライオトモグラフィー(ECT)によりサブナノメートルオーダーの立体像を得ることができた.また,総括班と共に空間分解能と時間分解能に優れた“急速凍結レプリカ電子顕微鏡観察法”をゼロからセットアップし,あしの鮮明な構造を捉えることに成功した.ニューモニエ滑走装置の内部構造についてもECTにより鮮明な三次元像を得ることに成功した.(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析:マイコプラズマ両種における,シアル酸オリゴ糖をつかんだり離したりする“あし”と考えられるタンパク質の組み換え体を大腸菌で発現させ,結合活性を持つタンパク質試料を得ることに成功した.これらタンパク質の電子顕微鏡および結晶化による構造解析,を開始した.さらに,滑走に必須であることが知られているタンパク質のいくつかについて,組み換え体を用いた構造解析を行った.(3) “あし”動きの予想と可視化:モービレの滑走時の動きと結合力を,ビーズ,蛍光ラベル,光ピンセットなどを組み合わせた系を用いることで解析し,足場への結合が進行方向へは,はずれやすいことを明らかした.この性質によりマイコプラズマは一方向に進むことができると考えられる.(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析:念願であったモービレにおける遺伝子操作の系を開発し,蛍光タンパク質との融合により,チューブリンホモログ(MMOB1050)とATP合成酵素ホモログ(MMOB1660)が滑走装置の部品であることを証明した.
|
今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に進展させる.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析:コントラストが低いためにECTによる三次元構造の再構築が不可能な部分について,急速凍結レプリカ法による再構築を行う.急速凍結レプリカ法を用いて滑走中における装置の構造変化をとらえることでメカニズムの本質に迫る.(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析:組換えタンパク質として得られた“あし”タンパク質のリガンドであるシアル酸オリゴ糖との結合活性を,光ピンセットと原子間力顕微鏡(AFM)で詳細に明らかにする.また組換えタンパク質に変異を導入し,結合活性に必要な構造を調べる.現在行っている電子顕微鏡および結晶化による構造解析を完成する.(3) “あし”動きの予想と可視化:滑走時の菌体の動きと,マイコプラズマが赤血球膜上を滑走している時の膜のゆがみから,“あし”による足場の引っぱりを予想する.また,昨年度に新たに取得した抗体を用いて“あし”を蛍光標識することで,その動きを可視化する.(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析:ラベルタンパク質との融合により,これまでに滑走への関与が示唆されている約20種のタンパク質の滑走装置中における局在を,蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を用いて明らかにする.さらにこれまでモービレやニューモニエでは不可能とされている相同組み換え法を開発し,あらゆる変異を導入することで,可能性のあるメカニズムを検証する.
|