計画研究
淡水魚の病原細菌,Mycoplasma mobile(モービレ)はその片側に滑走装置を形成し,ユニークなメカニズムで‘滑走運動’する.本研究ではこれまでの実験結果から提案した運動メカニズムの作業仮説,「滑走装置は4種類の新規巨大タンパク質から成る表面構造と,7種類のタンパク質から成る内部構造に分けられる.滑走装置からは長さ50ナノメートルのやわらかいあしが多数つきだしている.ATPの加水分解により装置に動きが生じ,あしのタンパク質が宿主細胞表面などのシアル酸オリゴ糖をつかんだり,ひっぱったり,はなしたりして,滑走運動が起こる.」に沿った実験を行い,マイコプラズマの滑走運動を,‘狭義のモータータンパク質’と同レベルにまで解明することを目標としている.本年度はモービレと,さらにモービレとは全くメカニズムの異なるヒト病原菌,Mycoplasma pneumoniae(ニューモニエ)について研究を行い,以下の結果を得た.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡解析,(2) 滑走に必須なタンパク質の構造解析,(3) あし動きの検出と解析,(4) 遺伝子操作による解析,を行い,それぞれ次項に記載する結果を得た.
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に展開した.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡解析:モービレとニューモニエそれぞれの滑走装置について,電子線クライオトモグラフィー(ECT)を用いて三次元構造を詳細に明らかにした.モービレについてはATP加水分解に伴う滑走装置の構造変化,さらに単離したモーターがATP合成酵素と酷似した構造であり,新奇構造により数珠つなぎになっていることを明らかにした.(2) 滑走に必須なタンパク質の解析:モービレにおいて装置内部と菌体表面をつなぐタンパク質を同定し,分子形状を明らかにした.ニューモニエの滑走に必須な3種類のタンパク質について,組換えタンパク質の発現,精製を行い,詳細な構造解析を行った.長年注目されてきたP1アドヘジンの立体構造に迫りつつあることを特筆したい.(3) あし動きの検出と解析:モービレの滑走時の動きと発生する力を,ビーズ,蛍光ラベル,光ピンセットなどを組み合わせた光学系と急速凍結レプリカ電子顕微鏡観察法を用いることで詳細に解析し,あし1本の動きを捉えつつある.また単一のシアル酸オリゴ糖(SO)をコートしたプラスチックアレイを用いることでSOの認識方法を明らかにした.(4) 遺伝子操作による解析:モービレにおける遺伝子操作の系を用いることで,7種類の滑走タンパク質の存在位置を明らかにした.ニューモニエの滑走装置のタンパク質15種類についてその局在位置を体系的に決定した.
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に完成させる.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析:単離した滑走装置の各部分を電子線クライオトモグラフィーと単粒子解析によりさらに高解像度に解明する.またそれらのATP加水分解などに伴う構造変化を高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて解明する.(2) 滑走に必須なタンパク質の解析:P1アドヘジンの構造解析を進め,高解像の構造を明らかにする.組換えタンパク質として得られたあしタンパク質のシアル酸オリゴ糖との結合活性を,光ピンセットと原子間力顕微鏡で解析する.また組換えタンパク質に変異を導入し,結合活性に必要な構造を調べる.現在行っている電子顕微鏡および結晶化による構造解析を完成する.(3) あし動きの検出と解析: あしをビーズ,金粒子,蛍光色素などで標識することによる動きの検出,急速凍結レプリカ電子顕微鏡法による横方向からの観察,これまでの菌体の動きと力発生の解析,を統合することで滑走時におけるあしの動きを解明する.(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析:相同組み換えや不活性タンパク質の過剰発現を行うことで,これまでのデータから示された力発生と伝達の過程を証明する.
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 9件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 7件、 招待講演 12件) 図書 (1件) 備考 (5件)
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