計画研究
細菌のタンパク質膜透過を駆動する2つの分子モーター(SecA ATPase, SecDF)の駆動メカニズムを解明するために、我々は部位特異的in vivo光架橋法を用いて解析を進めている。これは生細胞中での一過的なタンパク質間相互作用を高い空間分解能で明らかにすることができる画期的な手法であり、これまでにSecA-SecY間の近接部位の同定などに成果を上げてきた。本年は、PMFエネルギーを利用して膜透過を促進するSecDFにこの手法を適応し、1)SecDのP1ドメイン内で分子内架橋が形成されること、2)この架橋形成が、PMFに強く依存することを見出した。これらの結果は、本実験手法が、SecDの構造変化をモニターする分子ブローブとして利用できる可能性を示唆している。更に、得られた架橋が、我々が以前に構造決定した1つのコンフォメーション状態(I型と呼んでいる)で生じたものであることを確定させるために、I型の立体構造情報に基づいて周辺アミノ酸残基の系統的な架橋実験を進めた。その結果、予想通り近接部位でも同様の架橋が形成され、更にこれらの部位の架橋形成効率が、イオンフォアCCCP処理や、プロトン透過活性変異との組み合わせ実験により大きく低下する結果を得た。これらの結果は、上の作業仮説を強く支持する。現在、本内容を論文に取りまとめる作業を進めている。上記光架橋実験を、膜内切断プロテアーゼRseP、熱ショック応答転写因子シグマ32に適応した研究も並行して進め、得られた結果を、各々eLIFE誌、Scientific Reports誌に報告した。更には、ビブリオ属細菌由来のイオン選択性を異にする2種類のSecDFパラログの研究を進め、塩環境変化に適応するために、これらの発現を巧みに制御している機構を明らかにし、PNAS誌に報告した。
2: おおむね順調に進展している
SecDFの機能解析とエネルギー変換機構に関しては、ある程度の成果が出てきており、概ね順調に進んでいると考えられる。今後は得られた成果を取りまとめるべく努力する必要がある。最も主要なSecDF-SecYE間の近接部位の同定は未だ足踏み状態ではあるが、反応性の異なる他のアミノ酸アナログの利用や発現条件の改変により打開できるものと期待している。SecDFのイオン特異性を決める分子機構の解明も主要なテーマであり、努力を進めている。これに関連して、本年はビブリオ続最近が持つイオン選択性を異にする2つのSecDFパラログの生理的機能の解明で大きな進展があり、PNAS誌に報告することができた。極めてユニークな発現制御機構が明らかになり注目を集めていることも記しておく。
次年度は、本研究課題の最終年度でもあるので、これまでの成果の取りまとめを視野に入れて、以下の研究を進める。1)SecDFのP1ドメインを対象にした網羅的な光架橋実験を進め、基質結合部位の候補を見出している。現在は、想定結合部位への変異解析によりモデルの検証を進めている。次年度中の論文化を目指したい。2)SecD P1ドメイン内の1アミノ酸置換により機能を完全に失う変異を見出しており、そのサプレッサー変異も既に分離・同定している。その作用機構の解明を目指して、大腸菌SecD P1 ドメインの構造解析を連携研究者の塚崎と進める予定である。3)SecDFのプロトン透過経路は大凡推定されているが、プロトン透過とP1ドメインの構造変化の関係は未だ明らかではない。この関連を明らかにするために、SecDFのより高分解能の構造解析を目指すと共に、生化学的解析を並行して進める。4)異なる反応性を持つ pAZPAを用いて、SecDF-SecYE間の相互作用部位の同定を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Scientfic reports
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