計画研究
本研究の主たる目的は、アクチン結合ドメインとアクチンフィラメントの結合が協同的か、また二つのアクチン結合ドメインが排他的もしくは協調的にアクチンフィラメントと結合するかを解明することである。手法としては、蛍光顕微鏡による直接観察法と、アクチンフィラメントを超遠心し、共沈するアクチン結合ドメインの量を定量する方法を想定しており、平成24年度は、それぞれについて必要な設備の整備および組換えタンパク質の発現系の確立などを行った。蛍光顕微鏡による観察については、高速高感度ビデオカメラを導入するとともに、フィルター系などを工夫し、3色の蛍光色素を同時に観察できる全反射蛍光顕微鏡システムをほぼ完成させた。一方、すでに設置してある通常型の蛍光顕微鏡を用いた予備的な観察も進め、F-アクチンへのコフィリンとHMM(ミオシンIIの可溶性断片)の相互排他的な協同的結合を進めた。従来、ウサギ由来アクチン、ヒト由来コフィリン、細胞性粘菌由来HMMを用いてきたが、生物種が異なることによるアーティファクトの可能性が懸念されたため、全てのタンパク質を細胞性粘菌由来のもので統一し、HMMとコフィリンは相互排他的にアクチンフィラメントと協同的に結合することを確認した。上記と同じ三つのタンパク質の組み合わせについて、超遠心共沈法による解析も進めた、コフィリン結合がミオシンII結合を阻害し、コフィリン結合を促進すること、ミオシン結合がコフィリン結合を阻害することを確認した。また、ミオシンIIやコフィリン以外の多くのFアクチン結合タンパク質(具体的には、αアクチニン、フィラミン、ファッシン、フィンブリン、タリンAおよびB、トロポミオシン、コロニン、コーテキシリン)のアクチン結合ドメインとGFPとの融合遺伝子を作成し、一部については実際に細胞性粘菌細胞において発現を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では、3色同時観察可能な全反射蛍光顕微鏡の整備、予備的な結合実験、および新規アクチン結合ドメインとGFPの融合遺伝子作成の3点を進めることとしていたが、顕微鏡の整備はほぼ完了した。予備的な結合実験は、当初想定していなかった問題が生じたが、平成25年度前半に解決が可能と思われる。新規新規アクチン結合ドメインとGFPの融合遺伝子の作成も順調に進んだ。しかし一部について予備的に実際に発現してみたところ、当初の予想とは異なる局在を示すものがあり、当初の想定とは異なる方向への進展が見られることになるかもしれない。
平成24年度の結果をまとめるため、以下の実験を行う。1. 3色同時蛍光観察によるアクチンフィラメントの可視化するとともに、あらかじめアクチンフィラメントを観察基板に固定しておくなどの観察法の改良によりフィラメントの束化の影響の排除し、蛍光顕微鏡を用いたコフィリンとHMMのアクチンフィラメント対する相互排他的な協同的結合を確実なものとする。2.ミオシンIIがアクチンフィラメントに結合するとさらにミオシンIIが結合しやすくなる点について、結合速度の加速が原因ではないことがほぼ確実となったので、解離速度の低下に絞った解析を行う。これにより、コフィリンとHMMのアクチンフィラメント対する相互排他的な協同的結合のメカニズムを生化学的に解析する。さらに、以下の諸実験を進め、アクチンフィラメントの構造多型性と機能分化についての理解を深める。3.ミオシンIIとコフィリン以外のアクチン結合タンパク質にも対象を広げ、蛍光顕微鏡と超遠心法を中心とした解析を行う。4.ミオシンIIやコフィリンが結合したときのアクチンフィラメントの構造変化の実態の解明を進める。とくに、これらのアクチン結合タンパク質が協同的にアクチンフィラメントに結合していく際には、アクチンフィラメントの構造変化が長軸方向に伝播すると想定されるので、その様子を、高速AFMで観察することを目指す。また協同的構造変化を阻害する変異アクチンについて詳細な構造解析を行う。
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