研究領域 | 運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性 |
研究課題/領域番号 |
24117008
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
上田 太郎 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 総括研究主幹 (90356551)
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研究分担者 |
徳樂 清孝 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00332106)
長崎 晃 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (30392640)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | アクチン / ミオシン / コフィリン / 高速AFM / 全反射蛍光顕微鏡 / 協同的構造変化 |
研究実績の概要 |
昨年度に、高速AFM観察により、コフィリンがアクチンフィラメントに結合してコフィリンクラスターを形成しらせんピッチが短くなると、短くなったらせんピッチがフィラメントのP端方向に一方向的に伝播すること(一方向的な協同的構造変化)、さらに溶液中のコフィリンは、このらせんピッチが短くなった領域に優先的に結合することを見出した。今年度は、S1(ミオシンIIのモーター領域)とコフィリンが共存する際、両者がアクチンフィラメントとどのように結合するかを高速AFMで観察したところ、ATP存在下でS1アクチンフィラメントと相互作用している状況では、コフィリンのアクチンフィラメント結合が強く阻害されることを見出した。ATP存在下ではS1とアクチンフィラメントの結合は非常に短寿命であり、任意の時点において大半のアクチンプロトマーはS1と結合していないにもかかわらずコフィリン結合が強く阻害されたということは、S1によるアクチンフィラメントの構造変化に関して、強い距離的な協同性があるか、時間的なメモリー効果があることを示している。 細胞内のアクチン結合ドメイン(ABD)の局在に関して、フィラミンのABDが前後極性をもったアメーバ細胞の後部に集積しやすいことが以前から報告されており、われわれはそのメカニズム解明を進めてきた。紫色の刺激光で蛍光が緑から赤に変化する蛍光タンパク質mKikGRとフィラミンABDの融合タンパク質を細胞性粘菌で発現し、前後極性をもった細胞の中央部のmKikGR-フィラミンABDを赤色に変換したところ、6秒以内に細胞後部が赤色蛍光を発するようになった。この結果は、フィラミンABDが細胞表層流れに依存してゆっくり細胞後部に集積するという従来のモデルを明確に否定するもので、細胞前後のアクチンフィラメントの構造が異なっているためにフィラミンが細胞後部に集積するという仮説が強く支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速AFMを中心とした構造解析により、コフィリンやS1の結合がアクチンフィラメントの構造を協同的に変化させ、その結果コフィリンやS1自身の結合が促進されるだけではなく、他のアクチン結合タンパク質のアクチン結合が大きく影響を受けるというデータが蓄積しつつあり、これは当初研究目的を超える成果である。GFPなどの蛍光タンパク質を融合したABDの細胞内局在の解析は、昨年度まで思うような成果を挙げられなかったが、今年度は光変換型の蛍光タンパク質を使うことで大きな進展が見られた。また、全反射蛍光顕微鏡を用いた蛍光ABDとアクチンフィラメントの結合観察も、顕微鏡などの準備が整ったので、当初予定よりは遅れているものの、まもなく着手できる見込みである。 一方、中間審査においては、そうしたアクチンフィラメントの協同的構造変化の生理的な意義の解明への取り組みが弱いというご指摘があった。
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今後の研究の推進方策 |
高速AFMや蛍光ABDを使ったin vitro観察および蛍光ABDのin vivo蛍光観察は、今後も引き続き推進していく。 一方、生理的意義の解明への取り組みが弱いというご指摘に関しては、コフィリンとミオシンIIを相互排他的な関係にある典型的なアクチン結合タンパク質のペアとして選定し、一方の細胞内局在が他方の局在によって影響を受けるかどうかを細胞生物学的な手法で解明することとした。また全反射蛍光顕微鏡を用いた蛍光ABDとアクチンフィラメントのin vitro結合観察においても、異なった蛍光タンパク質を融合した複数のABDがアクチンフィラメントと結合する様子を観察することで、アクチンフィラメントの協同的構造変化とその生理的意義についての示唆が得られるものと期待している。
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