計画研究
昨年度までの高速AFM観察により、コフィリンは協同的にアクチンフィラメントと結合するが、ATP存在下のミオシンS1は、アクチンフィラメントの協同的構造変化を介してアロステリックにコフィリン結合を阻害することが示唆されていた。今年度は、この成果を二つの方向でさらに展開した。(1)昨年度中に整備を完了した多色全反射蛍光顕微鏡を活用し、S1+ATPによるコフィリン結合阻害を広い視野で確認し、さらに半定量的に評価した。ATP存在下ではほとんどのアクチンプロトマーがS1と結合していない低濃度(1 uM)のS1でそうした阻害が起きることを示した。(ii) S1+ATPによるアクチンフィラメントの構造変化の解明を目指し、高速AFMによる詳細な観察を行ったところ、らせんピッチの伸長が起きることを初めて見出した。また、そうした構造変化がフィラメントに沿って一方向的に伝播するなら、フィラメントの構造変化がミオシンによる力発生を駆動するという仮説が現実的に想定されうるようになる。そこで、HMMがアクチンフィラメントと相互作用する様子の高速AFM観察に着手したところ、HMMがクラスターを形成してアクチンフィラメントに協同的に結合する様子が可視化され、クラスターの伸長方向が一方向的か双方向的かを明らかにする実験系が確立できた。細胞内アクチンの構造多型性を検出する試みにも進捗があった。分子内FRET用にラベルした精製アクチンを細胞に導入し、FRET蛍光顕微鏡観察を行ったところ、PtK2細胞において、葉状仮足は高FRET状態、ストレスファイバーは低FRET状態であった。外力により変形した部位でも過渡的にFRET強度が上昇した。さらに高速で運動するケラトサイトにおいては、葉状仮足内でFRET強度に顕著な不均一性が認められ、細胞内アクチンフィラメントに何らかの構造多型性があることが証明された。
2: おおむね順調に進展している
アクチン結合タンパク質によるアクチンフィラメントの構造変化を高速AFMで観察するという分野では、昨年度までに引き続き顕著で当初想定を超える成果がでている。また、これと関連した手法であるが、多色全反射蛍光顕微鏡を使った観察系も立ち上がり、当初予定より遅れているが、成果が出つつある。細胞内アクチンフィラメントの構造多型性の検出を目指した分子内FRETアクチンを用いた研究も、細胞自体のFRET観察は想定以上の成果を上げている。今後、分子内FRET強度の変化と、実際の分子構造の変化の関連が確立できれば、きわめてインパクトの高い成果となるだろう。中間評価でご指摘のあった、アクチンフィラメントの構造多型によるアクチン結合タンパク質の制御の生理的機能の解明を目指した研究については、細胞生物学的なアプローチで取り組んでいる。本年度内にはまとまった成果は得られていないが、おおむね順調に進捗している。
高速AFMのユニークなメリットを活用した研究は本課題の中心となっており、今後も精力的に取り組んでいく。分子内FRETアクチンを使った細胞内アクチンフィラメントの構造多型性の検出については、実際の分子構造とFRET強度の変化を関連付ける努力を進めつつ、適当な時期に論文発表を行う。アクチンフィラメントの構造多型によるアクチン結合タンパク質の制御の生理的機能の解明を目指した細胞生物学的なアプローチにもひきつづき取り組み、論文発表を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 2件)
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