計画研究
転写開始後の過程については依然として未解決の課題が数多く残されている。本計画研究では以下の課題に取り組んでいる。課題1:転写サイクルのダイナミクス解析(山口)。in situで相互作用因子を解析可能なBioID法を改良し、生細胞内で転写因子等を動態解析することを目指している。BioID法の欠点はビオチン標識に18時間を要する点にあるが、その時間を数十分に短縮し、なおかつ標識効率を格段に高める改良法を開発した(未発表)。さらに、転写伸長の初期段階で働く転写伸長因子NELFが、Pol II転写産物の3’プロセシングの経路選択に重要な役割を果たしていることを見出した(Yamamoto et al. Nature Commun 2014)。課題2:Pol IIのリン酸化サイクルの解明(山口、川内)。Pol II CTDやDSIF CTRとリン酸化依存的に相互作用する既知および新規因子の構造機能解析を行っている。新規DSIF CTR相互作用因子XをCRISPR法によってマウスES細胞でノックアウトし、増殖や分化能に及ぼす影響を解析した。さらに因子Xとリン酸化CTRペプチドとの共結晶構造を解析した。また、DSIF CTRを部分欠損させたマウスES細胞を作出し、増殖や分化能に及ぼす影響を解析した(未発表)。川内は、Pol II脱リン酸化酵素FCP1が転写因子p53を介して細胞増殖を制御していることを明らかにした。課題3:普遍的な転写伸長装置が細胞の運命決定に果たす役割の解明(田村)。田村は、独自の血球分化誘導系を用いて、転写因子IRF8が転写因子C/EBPαと相互作用し、その機能を阻害することによって好中球への分化を阻害し、代わりに樹状細胞や単球への分化を促進することを明らかにした(Kurotaki et al. Nature Commun 2014)。さらに、IRF8が転写因子GATA2を介して好塩基球やマスト細胞への分化を促進していることも明らかにした(Sasaki et al. Blood 2015)。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記した研究項目をおおむね順調に消化しており、いくつかの成果を論文としてまとめることができた。課題1の新しい実験系の開発については模索が続いてきたが、あるトリックによりBioID法を大幅に改善することができ、H27年度以降、様々な転写因子等に対して改良型BioID法を適用していく目処がついた。
川内潤也(東京医科歯科大学)が一身上の都合によりH26年度末をもって研究分担者から外れた。H27年度からは高橋秀尚(北海道大学)が川内の分担内容を実施する。課題1:転写サイクルのダイナミクス解析(山口)。生細胞内におけるクロマチンや転写因子のダイナミクスを解析する新たな実験系を開発し、転写サイクルに関する新たな知見を得る。H26年度途中から取り組み始めたBioID法を改良・応用したダイナミクス解析系の開発を目指す。さらに、H26年度、転写途中のRNAプロセシング経路選択に関する新たな機構を明らかにしたので、H27年度はポリ(A)付加部位のゲノムワイドマッピングを行ない、導出されたモデルの普遍性を明らかにする。課題2:Pol IIのリン酸化サイクルの解明(山口)。リン酸化型CTD/CTRの相互作用因子群の機能構造解析を引き続き行う。マウスES細胞における遺伝子ノックアウトをH26年度行ったので、H27年度は得られたKO細胞のゲノムワイド・トランスクリプトームワイド解析を行う。さらに、リン酸化CTD/CTRと新規相互作用因子との間の相互作用の構造的基盤を解析する。課題3:普遍的な転写伸長装置が細胞の運命決定に果たす役割の解明(田村)。樹状細胞の分化に伴う転写開始並びに伸長の状態を評価する。まず樹状細胞のin vitro分化系を構築し、経時的に遺伝子発現解析とChIP解析を行う。さらに、発現が変化する遺伝子についてPol II、ヒストン、転写因子等のChIP-seq解析を行う。課題4:メディエーター複合体によるPol IIの転写伸長制御機構の解明(高橋)。メディエーター複合体が2つの異なる転写伸長因子複合体(SEC、LEC)をそれぞれ異なる遺伝子領域にリクルートすることで、遺伝子の転写開始、伸長、終結をどのように制御するのかに関して、ChIP-seq解析、RNA-seq解析やGRO-seq解析を行ない解明する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (26件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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