研究領域 | 高精細アプローチで迫る転写サイクル機構の統一的理解 |
研究課題/領域番号 |
24118004
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高橋 陽介 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90183855)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 発現制御 / 植物 |
研究実績の概要 |
植物の成長は遺伝的プログラムと外部環境により制御されている。転写因子複合体は内外の様々な刺激に応じて構成要素や修飾状態をダイナミックに変動させながら、遺伝子発現のパターンを決定する。本研究では光などの外部情報とジベレリン(GA)などの内部情報が、いかにして転写複合体の再構成・修飾により遺伝子発現を制御するのかを解明する。GAと環境刺激の信号伝達のクロストークの分子的実体を、転写因子複合体の再構成・修飾と捉え、転写サイクルにおける複合体の機能と動態の解析を目的とする。 GA信号伝達の負の制御因子として同定されたDELLAは、複数の信号伝達経路のノードである。DELLAの生化学的な機能は不明であった。我々はDELLAが転写因子のコアクティベーターとして機能することを明らかにし、さらにDELLAの結合因子として新たに転写因子GAF1を同定した。本年度はGAF1の発現を誘導可能な形質転換体を用いて、ChIP-seqとmRNAの3’タグプロファイリングによって植物の成長を制御する未知の遺伝子を探索した。得られたGAF1標的候補遺伝子の一つALP1059の機能欠損変異体の表現型を解析したところ、徒長、花成の促進などが観察された。 分子遺伝学的解析からSPYはGA信号伝達の抑制因子であり、DELLAの機能を促進することが示唆されていた。シロイヌナズナにはSPYに高い相同性を示す関連遺伝子SECが存在する。SECもSPYと同様の機能をもつと考えられていた。ところが我々がSPYとSECの機能欠損変異体を詳細に解析したところ、spyは徒長形質を示したのに対し、secは逆に矮性の形質を示した。本年度はSPYとSECの発現部位をレポーター遺伝子GUSを用いて観察した。その結果、SPYとSECは互いに異なる領域で発現していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シーケンサーを用いた解析によりGAF1の標的遺伝子を探索した。その中には植物の成長制御に関与すると思われる遺伝子が複数含まれていた。実際、候補遺伝子の一つALP1059の機能欠損変異体は成長が促進されていた。これらの遺伝子の解析から植物の成長制御の分子機構が解明されると期待される。 これまでSPYとSECの相同性は高く、またspy sec二重変異体が致死性を示したことから、SPYとSECの機能は重複すると考えられていた。ところが我々がSPYとSECの機能欠損変異体を詳細に解析したところ、spy変異体は徒長形質を示し花成も促進されていたが、sec変異体は半矮性形質を示し花成も遅延していた。spy変異体とsec変異体は逆の表現型を示すことから、両者の機能は成長制御において拮抗する可能性が示唆された。さらにSPYとSECは互いに別の領域で発現していることが明らかになった。興味深い知見が得られているので、全体としての達成度はほぼ順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、DELLAが転写因子RSGやZnフィンガー型転写因子GAF1と複合体を形成しコアクティベーターとして機能することを明らかにした。この転写複合体はGAだけでなく様々な環境刺激に応答して様々な遺伝子の発現を制御すると考えられる。次年度はGAF1の標的候補遺伝子のプロモーターを単離し、直接GAF1複合体で制御されるかトランジェントアッセイなどにより調べる。候補遺伝子の一つALP1059の機能欠損変異体の表現型を解析したところ、徒長、花成の促進などが観察された。ALP1059と花成ホルモン遺伝子FT、GA生合成酵素遺伝子との関連について調べる。他の候補遺伝子の機能欠損変異体の表現型を解析し、栄養成長、花成などへの影響を調べる。 分子遺伝学的解析からSPYとSECは拮抗的に植物の成長を制御することが示された。SPYとSECがin vivo において異なる生化学的機能をもつのか、それとも発現部位が異なるだけなのかを明らかにするためSPYプロモーターにSECを、SECプロモーターにSPYを接続したキメラ遺伝子を作製し sec、spy 変異体に導入して変異形質を抑圧できるか調べる。 RSGをリン酸化しRSGと14-3-3との結合を促進するキナーゼNtCDPK1はCa2+により活性化されると自己リン酸化される。さらにNtCDPK1はRSGと結合するだけでなく14-3-3とも結合することが示された。NtCDPK1の自己リン酸化部位の決定に成功した。このアミノ酸に変異を導入して非リン酸化変異型NtCDPK1や疑似リン酸化変異型NtCDPK1を作製し、NtCDPK1の自己リン酸化がキナーゼ活性、Ca依存性、基質認識、細胞内局在に与える影響を調べる。
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