研究領域 | 高精細アプローチで迫る転写サイクル機構の統一的理解 |
研究課題/領域番号 |
24118008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 春木 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (80134485)
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研究分担者 |
藤井 聡 九州工業大学, 大学院情報工学研究科, 助教 (40452825)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 分子動力学計算 / 転写因子 / 生体生命情報学 / 生物物理 / 生体分子 / 蛋白質 / ヌクレオソーム |
研究実績の概要 |
我々が新規に開発したアルゴリズム(Zero-multipole summation法)による高速な分子動力学計算の結果の数百ナノ秒程のトラジェクトリに対して、ダイナミックな原子間の相互作用を同定する新たなグラフ理論による解析法(mDCC: multi-modal dynamic cross correlation)を開発し、転写因子Ets1二量体–DNA複合体を初めとする様々なエンハンソソームの複合体に対して適用した。その結果、従来の解析では捉えられなかった、熱ゆらぎの中で過渡的に相互作用の相手を切り替えながら他の分子と接している残基が特定できた。さらに変異体蛋白質を含む様々な系での比較から、DNA制御エレメントの配列やパートナー転写因子が入れ替わっても基本的な相関ネットワークは保存されていることが分かった。一方、拡張アンサンブル法であるマルチカノニカル分子動力学法(McMD)により、転写因子Ets1におけるETSドメイン上流のリン酸化が与える転写制御への影響を調べ、天然変性領域におけるSer282とSer285のリン酸化により、自由エネルギー地形の解析からそれらリン酸化セリンがDNA結合領域をマスクすることを突き止めた。 情報科学的なアプローチでは、他のウェットの班員から産出されたゲノムワイドな実験データに対して、新たにshRNA-Seqスクリーニングに関しての解析法を開発した。また、転写サイクルにおける転写開始、転写伸長のシグナルとなるヒストン修飾や、転写装置であるRNA PolymeraseIIのChIP-Seqデータを解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画した分子動力学計算結果の新規な解析法(mDCC)の有効性を確立し論文として発表した。また、班員である緒方グループとの共同研究により転写因子Ets1を含む種々のエンハンソソームにの複合体に対する原子の動きのトラジェクトリから、mDCC法を用いて転写制御因子間のDNAを介した動的構造変化とEts1のアロステリックな制御のメカニズムが解析できた。さらに、Ets1のN末部位のリン酸化がDNAとの相互作用に与える影響について、リン酸化された構造の拡張アンサンブル法による計算を行い、常温において自由エネルギー的に安定な構造アンサンブルを得ることができた。 一方、情報科学的なアプローチでは、他のウェットの班員から産出されたゲノムワイドな実験データに対して、新たな解析方法を開発している。現在までに、shRNA-Seqスクリーニングに関しての解析法を開発し、現在最終的な検証を行っている段階である。また、転写サイクルにおける転写開始、転写伸長のシグナルとなるヒストン修飾や、転写装置であるRNA PolymeraseIIのChIP-Seqデータを解析し、局在状態と遺伝子発現量の相関を解析する方法を検討している。現状は、局在状態を遺伝子毎にまとめるという解析の基盤となる開発・検討がほぼ確立できており、解析対象・解析目的の違いよる解析のカスタマイズを行い、局在状態と遺伝子発現量の相関解析も様々検討している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
転写因子Ets1の制御エレメント認識機構に関する検討を引き続き行う。特に、Ets1のN末部位のリン酸化された構造の拡張アンサンブル法による計算結果を基に、リン酸化によるDNAとの相互作用の変化を通した転写制御のメカニズムの詳細をまとめる。また、愛媛大学平田章博士との共同研究によるアーキアRNAポリメラーゼ11量体形成機構を検討するため、D/L二量体状態と11量体状態のシミュレーション結果を比較することで、D/L二量体の役割を明らかにする。一方、情報解析からのアプローチとしては、引き続きゲノムワイドにおける転写関連因子の局在状態の解析、それらと遺伝子発現量の相関の解析に関する解析手法の検討を行っていく。ウェットのグループからも更なるデータを提供頂いているので、それらも合わせて複数の局在状態を統合的に解析し、協同的な転写制御を解析する手法を開発していく。問題点は特に無い。
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