研究領域 | 構成論的発達科学-胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解- |
研究課題/領域番号 |
24119002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國吉 康夫 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (10333444)
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研究分担者 |
多賀 厳太郎 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (00272477)
長久保 晶彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 知能システム研究部門, 研究員 (00357617)
大村 吉幸 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (10598022)
原田 達也 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (60345113)
山田 重人 京都大学, 医学研究科, 教授 (80432384)
森 裕紀 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80610849)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 認知発達 / 発達障害 / ロボティクス / シミュレーション / 胎児 |
研究実績の概要 |
本計画研究は,胎児期から乳児期までの連続的発達シミュレーションを構築し,環境条件を変化させつつ実験することで,発達の基本原理と発達障害のメカニズムを構成論的に解明する.これに基づき,発達障害の包括的診断法,支援法・支援技術の構築にも取り組む.また,実験結果の定量比較や診断用定量指標のために,胎児・新生児用の認知運動計測・解析の新手法も開発し提供する. 本年度は,領域共通発達脳モデルを踏まえて胎児シミュレーション・乳児ロボットを拡充・高度化し,初期発達事象の実験に取り組んだ.胎児シミュレーションの大規模脳モデルは,B01班より提供を受けた新生児脳DTI(拡散テンソル画像)データからtractographyにより大脳白質繊維構造を抽出して皮質間結合マップを生成し,これにより3次元大脳皮質モデル上に配置した260万個のLIF(漏れ積分・発火)ニューロンのネットワークを構築し,53億シナプス規模のモデルを構成した.前年度までに開発した胎児身体モデルを子宮内および子宮外(ベッド上)で自発運動させ,体性感覚,触覚データを上記大規模脳モデルでSTDP(スパイク時刻依存可塑性)学習して比較検討した.その結果,子宮内と子宮外の環境の差異が,体性感覚野に形成される身体表象の顕著な相違を引き起こすことが明らかになった.これは,早産児の予後における発達障害リスクの高さを説明する一つの可能性を実験的に提示した意味がある. また,胎児・新生児の運動計測を行った.胎児期についてはB01班と共同で母親の姿勢変化に対する胎児の姿勢変化について,超音波画像とプローブ位置測定装置のデータを統合することで再構成した.新生児期から乳児期については,縦断的な運動発達データの計測を行った.そして,これら運動データと発達シミュレーションとの比較に取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新生児脳画像データ(DTI)に基づく結合マップとスパイキングニューロンモデルを用いた大規模脳モデルの構築とその高速シミュレーション技術開発が順調に進展した.これを前年度までに開発した胎児身体・子宮環境モデルと統合することで,リアルな胎児発達モデルの構築が完了した.これを用いて,次年度の予定を前倒しして,子宮内と子宮外での比較発達実験を実施し,環境要因の差が脳発達に顕著な影響を与えうることを世界で初めて実験的に示した.この結果は,早産児の高い発達障害リスクについて,子宮内環境での学習が短縮されることにより大脳皮質上の身体表象形成が未熟となり,それが社会的認知基盤の発達に影響し得るとの示唆を与えるもので,本計画にとって非常に重要な前進である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果により,社会的認知基盤の基礎となる身体に関する脳表象が,初期の発達的経験によって影響を受けることが,身体をもつ脳シミュレータから構成論的に明らかになった.今後は,さらにこの知見を発展させて,社会的認知基盤との接続に向けて推進する.この知見に基づき,発達障害の包括的診断法・支援法・支援技術の開発を進める. また,胎児期の運動解析や乳児期の認知運動計測・解析結果を踏まえて,さらに胎児モデルの高度化を目指す.
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