研究領域 | 構成論的発達科学-胎児からの発達原理の解明に基づく発達障害のシステム的理解- |
研究課題/領域番号 |
24119004
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小西 行郎 同志社大学, 心理学研究科, 教授 (40135588)
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研究分担者 |
秦 利之 香川大学, 医学部, 教授 (20156334)
日下 隆 香川大学, 医学部, 教授 (50274288)
諸隈 誠一 九州大学, 環境発達医学研究センター, 特任准教授 (50380639)
松石 豊次郎 久留米大学, 医学部, 教授 (60157237)
船曳 康子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80378744)
三池 輝久 社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団兵庫県立リハビリテーション中央病院(子どもの, 診療部, 特命参与 (90040617)
小西 郁生 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90192062)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 発達障害 / 胎児 / サーカディアンリズム / 睡眠障害 / ゆらぎ / 脳幹 / 表情 / 子宮内発育遅延児(IUGR) |
研究実績の概要 |
発達障害、とりわけ自閉症が胎児期からの遺伝子と環境との相互作用によって生じることは多くの文献によって示唆されている。また、第2次世界大戦後の生後コホート研究によって心臓病や生活習慣病あるいは認知症や自閉症などの精神疾患が妊娠中の母体の栄養障害などによって引き起こされることが明らかになっている。しかし、その機序は未だに不明なため、胎児の研究が重要課題となっている。我々のこれまでの研究で、胎児期の心拍、胎動(四肢の自発運動(GM)と表情表出)、サーカディアンリズムなどが生後の発達障害の早期マーカとして重要であることが示唆された。この生体リズムの障害は自閉症にも共通して見られることから、「リズム障害としての自閉症」という新しい概念を提案できると考えている。また、生体リズムの障害は脳幹部の障害が自閉症発症の起点となることも強く示唆している。 生後の観察から、睡眠障害に見られるメラトニンやコルチゾールなど内分泌機能における細胞レベルのリズム異常から、GMといった運動レベルでの異常、母子間相互作用といった個体間リズムの引き込み現象の異常など、異なるレベルでのリズム異常/同期現象の異常も明らかになってきた。 生後の運動機能の異常については國吉班との連携で詳細な解析を行う予定であり、協調運動の障害発生のメカニズムも明らかにする。また、精神神経科と小児科との協働により、神経学的診断法、行動観察やアイトラッカーを用いた視聴覚認知の計測などを含んだ総合的な診断方法の開発を行おうとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自閉症が低出生体重児などのハイリスク児に高頻度に見られることはすでに明らかになっているが、最上らは母体の栄養障害などが胎児へ及ぼす影響や、早産になる原因について検討を加え、その治療の可能性も明らかにした。諸隈は胎児心拍についての検討を重ね、心拍の揺らぎのリズムと口唇運動のリズムの関係を明らかにしたが、今年度は心拍変動が生後発達と密接に関係していることを明らかにした。秦らは胎児の超音波による観察を精力的に行い、胎児期の表情と運動の発達について詳細な検討を行った。松石と三池らのグループは、自閉症児において睡眠障害が高頻度に見られることを明らかにし、同時に睡眠障害が発達障害の指標になることも明らかにした。三池・田島は自閉児の心拍が定型発達児に比べて高いこと、そのゆらぎに差があることを明らかにした。また、未発表であるが睡眠障害と耐糖能に異常がある自閉症児が少なくないことも明らかにした。岩田らはNIRSと脳波の同時計測を行い、脳機能と酸素代謝の相互作用を解析した。また新生児のコルチゾールやGHら内分泌機能のリズムについても明らかにした。松田と小西はアイトラッカーを用いて視聴覚刺激に対する視線計測を乳児期から成人まで横断的に行い正常発達の過程を明らかにした。船曳は自閉症児における協調運動の異常と視覚記憶の関係を明らかにし、運動模倣時の方略の違いも明らかにした。また、船曳が開発したMSPA(発達障害児の特性理解チャート)を用いた学習障害児の理解と支援を行った。 こうした研究成果と文献的考察によって生体のリズム障害としての自閉症という新しい概念を導き出すことが可能となってきた。今までの到達度については初期の計画についてはほぼ順調にできているが、生後のコホート研究についてはまだ不十分であり、産婦人科と小児科の連携が必ずしもうまくいっていない施設があり、両者の努力が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究と文献の解析によって、胎児期からのリズム障害としての自閉症という新しい仮説を提唱することになった。その検証に重点を置いて進める上で、胎児期からのリズム異常に関係するバイオマーカの選択が重要となる。候補として、児の心拍変動、母子間心拍変動の同期現象、胎動および表情の異常などが挙がっており、今後はそうしたマーカの異常を観察したケースの生後発達を一貫して観察するコホート研究が重要となる。香川大学、九州大学、久留米大学、京都大学ではすでにその体制が整ったので産婦人科と小児科の連携のもとにコホート研究を推進したい。生後のコホートについては協調運動の評価などを基にした小児神経学的診察とADOSを改変した精神科的観察を合わせ、臨床に使用できるような診断方法を開発する。新生児期、乳児期の運動については國吉班と共に解析を行う。視聴覚認知の心理学的診断方法についてはアイトラッカーを用いた視線計測に基づいたテストバッテリーを作成したので、今後はハイリスク児を対象に定期的に行い、障害の診断に応用する。胎児期の栄養障害が発達に及ぼす影響については動物実験などを加えつつ研究を行う。自閉症にはサーカディアンリズムやメラトニン、コルチゾールなどの内分泌機能のリズムなどの異常があることが言われているが、新生児期からのこうしたリズムや自発運動あるいは心拍などのリズムにも異常があるかどうかについての更なる検討を加える。 思春期の自閉症児に糖尿病危険児が多いことを発見したが、今後は睡眠障害、糖尿病、心拍の異常などを合併する自閉症児についての遺伝子異常の可能性について検討する。 自閉症児は引き込み現象に異常があることが示唆されているが、熊谷班と共同で並列歩行時の引き込み現象について心拍などの指標を用いて検討する。 この研究の中で発達障害とりわけ自閉症の新しい早期診断方法の構築もできると思われる。
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備考 |
領域で作成されたwebページ http://devsci.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/
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