研究領域 | 生物多様性を規範とする革新的材料技術 |
研究課題/領域番号 |
24120004
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
針山 孝彦 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30165039)
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研究分担者 |
下村 政嗣 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (10136525)
不動寺 浩 独立行政法人物質・材料研究機構, 光材料センター, 研究員 (20354160)
久保 英夫 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50283346)
石井 大佑 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60435625)
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
吉岡 伸也 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (90324863)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 生物表面構造 / 自己組織化 / サブセルラーサイズ / 構造色 / 太陽電池 |
研究概要 |
1)光学材料としての機能特性に関する数学的物理学的および生体の自己組織化現象の発生学的解析 A. ヤマトタマムシとミドリフトタマムシの胸部および鞘翅の表面サブセルラー構造を透過型電子鏡を用いて観察し、反射スペクトルの角度依存性を光物理学的解析した。ミドリフトタマムシ胸部に顕著な凹凸構造があり、またヤマトタマムシの胸部および鞘翅には比較的小さな凹凸構造があった。平板なミドリフトタマムシの鞘翅はスペクトル反射に顕著な角度依存性があるが、凹凸構造をもつ部分は比較的少ない。微粒子が規則配列したオパール薄膜では一つのブラッグ反射の回折ピーク λが可視光領域 ( 400~750 nm ) に存在するとき構造色として視認できる。この平板状のオパール薄膜の表面にホットエンボスにより凹凸構造を加工することに成功し、反射光が修飾され、平板状の薄膜に比べてスペクトル反射の角度依存性が下がることがわかった。 B.ヤマトタマムシの成虫脱皮の際の胸部および鞘翅の反射スペクトルと形態の経時変化を追跡した。その変化とショウジョウバエのそれとが比較的同じ時間経過をたどることが確認でき、透過型電子顕微鏡を用いた超微細構造の観察には、ショウジョウバエの発生過程を用いることが確認できた。クチクラの自己組織化現象の表面構造形成に、細胞内骨格の出現と消失が関わっていることが強く示唆された。 2)昆虫光学材料の多機能性高効率性の仕組みの解明 ショウジョウバエやオオタバコガなどの複眼表面を走査型電子顕微鏡によって観察すると、およそ100nmのモスアイ構造が存在していた。工学的な集光装置としてのモスアイ構造には、完全な規則性のある構造を実現することが必須であると考えられていたが、生物表面は不規則性があるにも関わらず高性能な光学材料としての機能実現を達成していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝学的技術と構造観察法を併用して、生物発生過程における表面構造形成プロセスを明らかにする手段の一つとして、遺伝的操作を加えることのできるキイロショウジョウバエを用いてモスアイ構造の変化の誘導を試みた。本種に遺伝的な変化を与えると、大型や波形のニップル構造に変化させることができた。この波形の構造は自然界に存在するイエバエの個眼表面に極似しており、多種の双翅目昆虫の複眼も観察すると種固有のパターンがあることがわかった。また精密ではなく“いいかげん”な形成をしていることがわかった。 一方、構造色の研究では、工学的自己組織化によってミドリフトタマムシの鞘翅の再現平板を作製でき、この平板にホットエンボス操作により、昆虫を規範とした凸凹構造をつくることに成功し、スペクトルの角度依存性を下げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ショウジョウバエの複眼と脚先に注目し、遺伝的操作を駆使して、詳細な発生過程を追跡する。その方法として、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用い、サブセルラーサイズの現象を明らかにする。モスアイのニップルの形状を変化させる遺伝的操作を行い、それらの変異個体の発生過程を解析する。 “いいかげん”な形成過程の発見と、モスアイ構造の種固有のばらつきがあるという発見によって、この“いいかげんさ”がどのくらいの頻度で生物の機能表面に存在しているかを明らかにする。この解析には、主に走査型電子顕微鏡を使用し、複眼における個眼の形状および個眼の上のニップルの配列に注目する。これらの結果を踏まえて、“いいかげんさ”の意味について、物理・数学的に解析可能か検討する。
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