計画研究
バクテリアでは、群集解析手法はすでにほぼ確立されており、太平洋亜熱帯・熱帯で試料の採集および解析が実施された。表層と深層における優占種の違いや、付着性バクテリアと浮遊性バクテリアでは付着性バクテリアの方が種数が多く均衡度が高いことが認められた。深層水における優占群の把握は新規の知見であり、今後、これら固有微生物群集の機能が注目される。さらに、網羅的解析においては非優占群の硝化細菌に注目し、その鉛直分布を明らかにした。植物プランクトン群集を対象とした研究では珪藻とハプト藻に関して、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析法を開発し、太平洋亜熱帯域での群集組成を明らかにした。昨年までは機器導入、試薬の提供が遅れていたが、本年度は本格的に網羅的解析が実行された。植物プランクトン群集のなかでも、既存の珪藻グループに属さない系統群の寄与率が低緯度域で増加する傾向がみられ、未知のリボタイプが群集内の大きな割合を担っていた可能性が考えられた。またハプト藻の分析においても円石藻の亜熱帯域における優占が確認された一方、従来あまり注目されておらず形態分類が難しいChrysochromulina属などの寄与も大きいことが明らかとなった。最も遅れていた動物プランクトンに関しても、rDNA28SD2領域を用いた網羅的解析手法が確立し、形態分類と比較可能な種分解能、生物量の定量性が確保された。確立した分析手法を用いて、黒潮域、亜熱帯・熱帯太平洋で採集された試料を分析し、生物多様性や群集組成を分析した結果、従来の知見や形態分類による解析と同様な結果を得ることができ、植物、バクテリアを含めて海洋の微小生物群集について、形態分類に依存せず、比較的短時間で従来以上の精度(非優占群の解析も可能な)で解析法が確立したと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
3生物群で手法確立に関して、差はあるが、これは計画の達成度というよりは本プロジェクトを始める時点での対象生物群間での研究の成熟度に依存する。今年度は、バクテリア、植物プランクトン、動物プランクトンで次世代シークエンサーを用いた網羅的手法が確立し、比較可能なデータが得られる状態になった。3生物群間で対象海域が多少ずれている問題はあったが、昨年度からは同じ航海の試料分析を行い、さらに、高次捕食者であるマイクロネクトンまで分析対象を広げ、太平洋の海洋生物地理の解明を大きく広げる可能性を持った。
網羅的解析のメリットは、分類に関する知識や経験が不足していても、保証されたレベルで生物を分類し定量されることにあり、またそれに費やされる時間やコストも機器の発達により格段に減少している。今後、同じ航海で得られた試料を解析することにより、生物群間で群集構造が同じ要因により制約を受けているのか、それとも生物群間で異なる要因があるのかなどが議論できるようになった。現在、3つのグループは南太平洋の縦断観測を行った航海で得られた試料の分析を行っており、さらに2014年度は赤道から北極海に至る縦断観測を行う航海が予定されている。今までは手法の開発に主眼を置いての進行であったため、違う航海の試料分析などが偏在したが、今後はより統合的な解析が中心となる予定である。さらに、両航海においてはより高次食段階生物(マイクロネクトン)の採集も行っており、適当な連携研究者の協力を仰ぐことにより、バクテリアから小型魚類までの4-5段階の食段階における群集構造、多様性の把握が可能となる。もう一つの方向性は、植物プランクトンや微生物でいくつかの挑戦が始まっている、発現遺伝子解析による物質循環研究への寄与である。植物プランクトンやバクテリアでは窒素固定、アンモニア酸化、炭素固定に係る遺伝子が本研究で定量されており、近未来的には、環境遺伝子(特定生物から抽出された遺伝子ではなく、海洋の場合海水や粒子総体から抽出された遺伝子)の解析から、海域で起こっている窒素循環、炭素循環が推定できるようになると考えている。動物プランクトンの場合は、植物やバクテリアなどと異なり物質循環への寄与ではなく、例えば飢餓といった生理状態やストレスを遺伝子発現から推定することが可能であり、従来の単純な分布量とは別次元の理解が深まると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち査読あり 16件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (28件) (うち招待講演 5件)
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