研究領域 | 新海洋像:その機能と持続的利用 |
研究課題/領域番号 |
24121006
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (20334328)
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研究分担者 |
佐藤 光秀 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60466810)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 海洋生態 / 物質循環 / 植物プランクトン / 栄養塩 / 微量金属 |
研究実績の概要 |
太平洋の植物プランクトン群集における窒素・リンおよび微量栄養素による共制限 窒素あるいは鉄が主要な制限栄養素となっている太平洋の亜熱帯域および亜寒帯域において、他の栄養素による共制限状態を明らかにするため、栄養物質のマニピュレーション実験を行った。亜熱帯域表層水の栄養塩濃度に関して、西部北太平洋では硝酸塩とリン酸塩が共に検出限界以下であったにもかかわらず、植物プランクトン群集が応答を示したのは硝酸塩に対してのみであり、硝酸塩とリン酸塩の共制限は確認できなかった。亜熱帯域における植物プランクトン群集の応答は、窒素源として尿素や他の無機態窒素を添加した場合にも見られ、西部北太平洋では、シアノバクテリアとピコ・ナノ真核植物プランクトン尿素とニッケルの共制限が起こり得ると判断された。北太平洋亜寒帯域では、植物プランクトン群集が鉄制限を受けている場合には渦鞭毛藻が、窒素制限を受けている場合には渦鞭毛藻とシアノバクテリアが、ビタミンB12との共制限を受けていることが示唆された。
太平洋におけるリン酸モノエステラーゼ及びジエステラーゼ活性 夏季西部北太平洋においてリン酸モノエステラーゼおよびジエステラーゼ活性の測定を行った。その結果、北緯30度付近のリン酸枯渇域で高い酵 素活性が見られ、当該海域における群集全体のリン制限が確認された。また、反応速度パメータの測定から、リン酸ジエステルがモノエステルに 比べ生物学的に極めて不活性な画分であることが明らかになった。これらにより本手法が高感度のリン欠乏診断手法として有効であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北太平洋を広汎に調査する白鳳丸KH-12-3次航海(7月~8月)・KH-12-4次航海(8月~10月)に乗船し、複数の海洋区系をカバーする形で海洋表層の現場植物プランクトン群集を対象とした船上での添加培養実験を予定通り実施することができた。 また、上記の航海において、海洋現場における変動状況を把握するための栄養塩・溶存微量金属測定用海水試料や大気降下物質試料を採取することができ、現在、それらの分析を進めている。 さらに、新規導入された高速液体クロマトグラフと海水試料自動濃縮ICP-MS導入装置、ポーラログラフ装置により、海水中のビタミン類および各種微量金属の測定体制が整った。
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今後の研究の推進方策 |
1.各海洋区系における生物生産調節要素の相互作用の解明 今年度明らかになった共制限の結果として生じる植物プランクトン群集組成の変化が、海洋物質循環における一次生産の機能にどのような影響を及ぼし得るのかについて、南太平洋を南北に調査する白鳳丸KH-13-7次航海(H25年12月~H26年2月)に乗船し、同様の船上培養実験と現場観測により検討を進める。また、リン酸生物利用能については、発現解析を含めた分子生物学的手法により、属や種レベルでのリン制限状態の解析を進展させる。 2. 各海洋区系における生物生産調節要素の実態と時空間変動の把握 上記の白鳳丸研究航海において、マニピュレートを行う生物生産要素の海洋現場における変動状況を把握するため、栄養塩・溶存微量金属の濃度、大気降下物質中の栄養塩・微量金属の濃度、有機錯体鉄のキャラクタリゼーション、水中光環境などに関する洋上観測を行う。また、H24年度の航海で得られた海水試料中の各種微量金属の濃度について、高分解能ICP-MSを用いて測定し、各海洋区系における微量金属分布の特徴について検討する。
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