計画研究
本研究班「生元素循環および生態系の長期変動解明」では,生元素や海洋生物の観測データ及び、衛星観測データを用いて、気候変動に対する応答過程の海域比較や、生態系・物質循環のリンクを明らかにするための研究に取り組んでいる。それらの研究を通じて、海域毎の生物地球化学的、生態学的な特徴を浮き彫りにし、本領域研究課題の目標の一つである、新海洋区系の提案に寄与することを目的とする。2013年度は、北太平洋をターゲットに、それぞれ異なるアプローチにより、生元素の季節変動パターンからみた海洋区系、クロロフィルの季節変動パターンからみた海洋区系、植物プランクトンの多様性と制限栄養塩からみた海洋区系、という3つの海洋区系を提案することが出来た。また、動物プランクトンの多様性分布と提案された海洋区を比較し、多様性の形成要因について検討した。生元素の季節変動パターンからみた海洋区系については、生物活動に関係の深い化学成分である全炭酸と主要栄養塩について、タンカー船等の篤志船舶等による観測で得たデータに基づき、北太平洋を季節変動パターンの異なる9つの海域に区分した。クロロフィルの季節変動パターンからみた海洋区系については、衛星海色データを用いて、同様に北太平洋を13の海域に区分した。生元素海洋区系と比較すると、亜寒帯の東西勾配が不明瞭であり、沿岸と外洋が明確に区分された。植物プランクトンの多様性と制限栄養塩からみた海洋区系は、衛星海色データから海域毎に優先する植物プランクトンのサイズクラスを見積もり、各クラスの成長の制限要因となる栄養塩をモデルで計算し、既存のデータから得た栄養塩分布と合わせることにより作成した。動物プランクトン多様性分布に関しては、連続プランクトン採集器モニタリングや過去の観測データを用いて、種組成の時空間変動とそのメカニズムを検討し、上記の海洋区系の境界との関連を調べた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画どおり、データを収集/解析し、それらのデータを用いて異なるアプローチにより、それぞれに特徴のある3つの海洋区系を提案することが出来た。また、それらを比較し、動物プランクトンの多様性との関係を調べることで、各海洋区系の決め手となる、海洋の物理構造―化学過程―低次生態系の関係について考察することができた。本課題で雇用している研究員は、上記のうち生態系モデルによる海洋区系の開発を担当しており、学術的に優れた研究成果を挙げている。
本課題では、海洋区境界の経年的変化についても長期変動解析および生物地球化学/生態系モデルを用いて検討し、「動的」な海洋区を提案したいと考える。よって、来年度以降は、さらなる観測/実験データを用いて、今年度までに開発した各海洋区系の改良を試みるとともに、海洋区の境界や生物分布の経年的変化を明らかにし、その気候変動の影響を調べる。また、領域研究全体への貢献として、他課題より提案された海洋区系や高次生態系の生物分布と本課題の海洋区系を比較し、物質循環と生態系の時空間変動のリンクについて検討する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (20件) 図書 (3件)
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